1月 12日 火曜日

コーンフレークを箱から直に口の中に投入して、牛乳で流し込む。

リンゴを齧りながら新聞に目を通し、生卵を2つ、直に口の中に割りいれ、飲み込む。

こうしていつも通りの合理的な朝食を済ませ他の生徒より早めに登校する。

そして、昨夜から抱いていた嫌な予感は的中した。

廊下のリノリウムの床に新しいひび割れを見つけたのだ。

この形は…間違いない。くそ、彼女は自分の立場がどうなっても構わないってのか?

こういう事態に備えて持参した接着剤や速乾性のパテで補修して、素人目には解らないようにしておく。

早めに登校して校舎の破損を見つけ出し、可能な限り補修しておいて誤魔化すのは、もう何度目になるだろう?

…別に、彼女から頼まれたわけでもないのに。

………。

……。

…。

昼休み。

学食は新メニューのせいか大盛況だった。

新メニューに人気が集中したため、相対的に他の物の競争率が下がる。

そのおかげで劇レア物のヒレカツサンドの購入に成功した。

学食は相変わらずの盛況ぶり。邪魔になったら悪いから教室で食べるか、と思ったら……

仲良く話す4人組が目に入る。

我がライバル、美坂香里と、極寒の中庭で栞さんと会っていた褐色の髪の男子生徒と……

前に駅前で待ち合わせしていた二人だった。

やはりあの二人には見覚えがある。

女生徒「ごめんね、ふたりとも」

男子生徒「まったくだ」

女生徒「祐一も待っててくれるの?」

……『祐一』……『ゆういち』!?

彼が祐一?

見覚えがあったのは彼があの『ゆういち』だったからか。

彼は戻ってきたのか? あのときの言葉、届いていたのか!?

なぜ連絡が……と思ったが、連絡先を告げる暇も無かったから仕方ないかもしれない。

しかし、何らかの方法で連絡を試みるのではないだろうか?

祐一は……あゆの状況を知っているのか?

ひとりだけ先に戻ってゆく彼の後を追う。

そこには……

川澄さんがいた。

祐一は彼女と親しげに話しかけている。知り合いなのだろうか?

祐一「魔物ってなに」

……!!

祐一も魔物を知っているのか?

 夜な夜な校舎を破壊する者がいる。
 新校舎の建設段階から、不自然な事故や物品の破損が相次いで発生していた。
 それは今現在まで続いている。
 僕が生徒会に入った理由はそれだった。
 あゆと共に通う、という夢こそ叶わなかったものの、この学校は大切な場所だ。
 父さんと月宮のおじさんが作った校舎を壊す者を許す事などできなかった。

 犯人とされている人物がいる。

 川澄舞。
 子供の頃から彼女の名前だけは知っていた。
 僕はUFOや幽霊の類のオカルト物のTV番組を見るのが好きだった。
 もっとも、内容は信じていない。
『この人の体験談はあの小説の焼き直し』 『この写真は明らかに合成』 『同じ写真が別の本で異なる紹介をされている』
 …などと、ひねくれた見方で楽しんでいたのだ。
 こんなの可愛くないと解っていたから、夏休みの自由研究としてノート数冊に及ぶレポートを提出するという暴挙は思いとどまった。
 だが、その手のトンデモ本を書けそうなくらいに豊富な知識量を誇る僕にも『超能力少女川澄舞』のトリックは見抜けなかった。
 だから川澄舞という名は印象に残っていた。

 この新校舎の建設が始まったとき父さんの案内で工事現場を見学しに行ったら、木刀を手にしたセーラー服の女の人を見たことがある。
『超能力少女川澄舞』の成長した姿だった。
 彼女はこの学校に進学した頃から奇行ぶりが目立っていたらしい。
 それに目をつけた反生徒会の連中は、 『川澄舞は中学時代から木刀を手に権力と戦ってきた』
 などと言い出し、反体制の英雄に祭り上げてしまった。
 校舎破壊の犯人をメンツをかけて血眼になって探していた生徒会や教師たちが彼女を疑い始めるのは当然だった。
 もしかしたら、それこそが反生徒会の連中の狙いだったのかもしれない。

 しかし……だ。話が支離滅裂である。
 学校に剣を持ってきていると言う噂があった。
 当然ながら、そんな物を入手して学校に持ち込む時点で無理がある。
 仮に剣を学校に持ち込んでいるのが事実と仮定しても、剣はおもちゃで、アニメか特撮の類のコスプレか何かだと考えるのが妥当だろう。
 窓ガラスが割られたこともあるが、破片のほとんどが屋内に向かって飛び散っていた。
 2階や3階の窓でも同様だった。
 石や氷(と同じくらいに固められた雪玉)が投げ込まれた形跡は無い。
 ベランダのような足場なんて無いから外から割ろうとしたら窓から身を乗り出して棒か何かで叩き割るしかない。
 工事でガラスを運ぶ時に使う強力な吸盤を取り付け、思い切り引っ張れば可能かもしれない。
 その他にも色々と方法は思い浮かぶのだが、いずれにしても『不良』が『社会への反抗』等で、そんな面倒な手段を取るとは到底考えられない。
 それに、窓ガラスの破片の中には製図機を使ったかのように正確な円や多角形の痕跡を見せるものがあった。
 断面も研磨剤で磨かれたかのように綺麗だった。
 ガラス切りを使ったってこうはいかない。

 その事を指摘して、彼女を犯人扱いするような馬鹿な真似は止めるように進言したが、まともには取り合ってくれなかった。
 生活指導の教師曰く……
   「彼女がやっていない、という証拠もない」
 耳を疑った。そんな事を言い出したら、あらゆる裁判の被告は有罪になるだろう。
「ガラスに関して科学的な説明が付かないのが、何よりの証拠じゃないか。超能力を使ったのならそれも当然だ」
 平然とそう言い放った。
 正気を疑った。

 川澄さんが出演した番組は実名入りで放送していた。
 そして番組の内容を真に受けた馬鹿が名前を手がかりに彼女を見つけ出し、嫌がらせをして大問題になったと聞いた事がある。
 そして、その馬鹿のひとりが目の前にいるとは!
 …しかし10年も経った今、まさかこんなイイ歳した大の大人が、しかも教師がこんな戯言を言うとは。
 残念ながら、このオカルト馬鹿教師の発言力は小さくなく彼女には叱責……更には停学処分が下されることもあった。

 そして生徒会による夜間の見回りが始まった。
 生徒会の人間が行うことで教師のメンツは丸つぶれ。
 しかも、生徒の規範にならねばならない生徒会の人間が夜遅くに徘徊するという矛盾をはらんでいた。
 呆れたことに生徒会の連中の中にも『超能力少女』の力を真に受けて怯える者が少なくなく、見回りを適当に済ませて逃げ帰る者が多数いた。
 そして僕の番がやってきた。
 相棒になるはずの男子生徒は腹痛だと言って逃げ帰った。呆れて物も言えない。

 そして、懐中電灯を手に廊下を歩き回っているときだった。
 ガシャン!
 静寂に満たされた校舎にガラスが割れる音が響き渡った。
 音の方向に懐中電灯を向ける。
 割れる音は連続し、大きくなる。割っている何かは接近している?
 懐中電灯の光がガラスの破片に当たり乱反射する。
 破片はやはり屋内に向かって飛んでいた。
 そして、そこには誰もいない。

 前に見た映画の1シーン、戦闘ヘリが高層ビルを機銃掃射する場面を思い出した。
 慌てて逃げる。
 窓の無いところなら!
 コンクリートの壁ならば、ヘリの機銃にもある程度は耐えられるだろう。
 そして万一の貫通に備えて伏せる。
 だが、そもそも音はガラスが割れる音だけで、ヘリのローターや機銃の音もしない。石か何かが投げ込まれる音もしなかった。
 第一、そんなB級アクション映画みたいな事件が現実に起こるはずがない。
 目の前の床がきしむ。
 ふわ、と浮かび上がる感覚。
 そして衝撃。

            …違う

          この人じゃない

 硬い物……壁に背中からぶつかった。
 咳き込みながら考える。
 何だ? 何が起こった? そこには誰もいなかった筈だ。
 ミサイルが撃ち込まれた? そんな馬鹿な。
 そもそもこの学校を攻撃する理由なんて無いだろう。
 それともここは、特務機関の秘密基地だとでもいうのか?
 僕だってただの高校生だ。秘密組織から特命を帯びて潜入した工作員ってわけじゃない。
 さっき脳裏に浮かんだ光景、そして声は?
 どんなトリック? そもそも何のために?
 TVのドッキリカメラか? 今時流行らないっての。
 方法も、理由も、何もかもが解らない。
 更に足音が近づいてくる。その方向に目をやると……

 川澄舞!?
 一振りの剣を構えて駆けてきた。
 番組のプロデューサーは、どんな意図でこんな演出をしてるんだ?
 いや、そんなことではなく噂は本当だった!?
「はぁっ!」

 彼女は僕の体を飛び越え(わざとではないが、お尻にクマがプリントされた可愛い下着を拝見してしまった)何もない空間に剣を突き出した。
 そして飛び上がったままで空間に一旦静止する。
 一体どうやって!?
 着地した彼女は、目の前の空間を袈裟懸けに切りつける。

 その剣は途中で寸止めでもするかのように静止した。
 目の前に広がる光景が全く信じられない。
 慣性の法則で考えれば、勢いがついた自分の体や剣を空中にピタリ、と静止させることなどできるはずがない。
 …そこに、目に見えない『何か』がない限り。

 今度は剣が空振りし、リノリウムの床に突き刺さる。
 ……本物? おもちゃではない?
 何もないはずの空間にトリックでは説明つかない物理法則を無視した斬撃が何度も繰り出される。
『目に見えない怪物と戦う女剣士』などという、まるでRPGのような光景を呆然として見つめていた。
 そして、再度リノリウムの床に空振りした剣が当たる。
 床がきしむ音は僕に接近して来た。
 ……と、思ったら僕をすり抜け後方へと通り過ぎていった。

 静寂が戻ってきていた。
 だが、更なる襲撃を警戒しているのか彼女は剣の構えを解かない。
「……」
「……」
 お互い沈黙を保つ。
 今頃になって僕は激しくなっている心臓の鼓動に気付いた。

 そして数分の後、安全だと確信したのか彼女は構えを解いた。
 彼女は腰を抜かしている僕を一瞥した後、何も言わずに背中を向ける。
「ちょ、ちょっと待って!」
 歩みを止めた。
「……」
「一体なんだったんだ、今のは…」
「……」
 再び背を向ける。

「……べ、別に、責めたり言いふらすつもりは無いよ!話したって誰も信じないだろうし。だけど説明してくれてもいいだろう?」
 僕はその背中に向けて、そう捲くし立てた。
「……」
 彼女の足が静止した。
「……」

       「…私は魔物を討つ者だから」

 その一言だけが、静閑となった空間に残された。

 翌日、彼女は停学処分が下された。
 僕は彼女のことは誰にも何も話していない。
 だが、これまでと同様に彼女が犯人だと決め付けられており、短絡的な真似は止せと言う僕の忠告は聞き入れられなかった。
 それからは、生徒会の他のメンバーの当番も僕が肩代わりして(同様の体験をしたのかどうかは不明だが怯えていて2つ返事で代わってくれた)僕は見回りを口実に彼女に会いに行った。

 彼女は停学処分中でもお構いなしで、夜の校舎に出没していたのだ。
 だが、どんなに話しかけても彼女が僕に口を開く事はなかった。
 彼女に危険な事はさせたくなかった。
 だが、やめさせることなど僕にはできなかった。
 彼女も、僕と同じだったのだ。
 ここを守ろうとしているだけだ。手段が違うだけだったのだ。

 戦闘も発生した。
 その間、僕は逃げるしかなかった。
 普通の人間でしかない自分を歯がゆく思ったが、自らの特異な能力故に迫害された経験がある彼女から見れば、贅沢な悩みかもしれなかった。
 そう、僕はもう、彼女がTVで披露していた『力』はトリックではないと理解していた。
 オカルト馬鹿教師と違う点は、真犯人が川澄さんではないことを知っている、という点だった。

 そしてある夜、僕が初めて遭遇した時のように魔物が窓ガラスを割りながら接近してきた。
 逃げようとしたが足が絡まり転倒する。

 やられる…!!
 と、思ったが、彼女が駆けつけてきた。
 そして僕の前に立ちはだかり、剣を盾にするように構えて攻撃を受け止めようとする。
           ギィン!
 かん高い金属音が響き渡る。
 だが、衝撃を吸収しきれず吹き飛ばされた彼女は肩から壁にぶつかった。

 そして静寂が戻る。
 魔物が立てる音は聞こえない。止めを刺さずに去っていったのだろうか?
 肩に手を当て、よろめきながら立ち上がる彼女に駆け寄る。
「大丈夫…ですか?」
「……」
 痛みに顔をしかめていたが、こく、と頷く。

「ごめんなさい。僕が、まごまごしていたから……ですよね?」
「……」
 相変わらず沈黙が続く。彼女が否定の言葉を口にしないということは、正解なのだろう。
 何の力にもなれやしない僕が夜の校舎をうろつくのは、彼女の足枷でしかなかったのだ。

「もう、来ません」
「……」
 彼女は何も言わずに去っていった。
 その日を境に僕が夜の校舎に行くのは止めた。
 元々、なし崩し的に夜回り制度は無くなっていたので誰も何も言わなかった。
 その代わりに、朝早くに登校して彼女の戦闘の痕跡を見つけ出し、可能な限り補修して彼女の行為をもみ消すようになった。
 僕にできることなど、これくらいしかなかった。
 生徒会の中での僕ひとりの力などたかが知れていた。
 だから僕の弁護ぐらいでは生徒会や学校が下す処分の撤回や軽減などできるはずがなかったのだ。

祐一「彼氏だ。全校公認のな」

なっ……!!

川澄さんとの経緯に思いを巡らせていたが、祐一のとんでもない発言で我に帰った。

佐祐理「ふぇー…」

いつの間にか佐祐理さんが来ていて祐一の発言に僕同様に呆然としていた。

祐一が川澄さんの彼氏……!?

祐一「こらこら、否定しないから信じてるじゃないか、このひと」

川澄「そうじゃない」

祐一「遅すぎるっ」

そ、そうだよな。彼女には重大な使命があるんだ。気の毒だけど、恋愛を楽しむほど呑気な人生送る暇なんてないよな。

……!?

川澄さんが誰と付き合おうが彼女の勝手だ。それなのに、なんで僕が一喜一憂しているんだ!?

そりゃあ、確かに夜な夜な命がけの戦いを続ける彼女のことが気にならないわけじゃないがそれは父さんと月宮のおじさんが作ったこの校舎の安全を守る義務を持つ生徒会役員だからであってそういう感情を彼女に抱いているわけじゃないだけど初めて魔物に遭った夜の剣を手にした彼女は美しかったしかっこよかったしチラリと見てしまったクマの可愛いパンツは目に焼きついているって何を考えているそんな破廉恥で失礼なこと僕は最低

チャイムが鳴った。

我に返ると周りには誰もいなかった。

そして胃袋は今手に持っているヒレカツサンドを猛烈に欲していた。

思わず握り締めていたため高度に圧縮されていた。

………。

……。

…。

       1月 13日 水曜日

夕方、アパートで課題のレポートをまとめていると電話が鳴った。

通常の連絡は携帯電話にかかるはずだ。

この部屋に元々あった電話の契約はずっと継続したままだが、この番号にかける者などもういない筈だった。

警戒しながらも埃が積もった受話器を取る。

和弥「…もしもし」

        『……あ…れ?』

聞き覚えがあるような、ないような女の子の声。

和弥「…どちらにおかけでしょう?」

          プツッ

…間違えたなら一言謝れよ。

……!?

さっきの声……あゆ?

そんな馬鹿な。でも、この番号を知っている人の中で女の子なんて……。

再び電話が鳴り出す。

ありえない。そんな事あるはずがない。

では一体誰なんだ!?

電話機を見つめる。

意を決して取ろうと手を伸ばしたら……切れた。

この部屋は、かつてあゆの一家が暮らしていた。

しかし、あゆは僕の家で暮らすことになり、この部屋は引き払う予定だった。

だが、あゆが今後の身の振り方をはっきりと決断する前に、あんなことになってしまって計画は宙ぶらりんになっていた。

待っている人などいなくても、あゆが帰る場所はここなのかもしれないと考え、部屋や電話の契約は継続している。

そして、父さんと月宮のおじさんが作った学校の近くなので進学の際に僕が入居したのだ。

まさか、本当にあゆなのか!?

だが、病院に電話すると、脳波は覚醒状態を示しているが様態は相変わらずとの事だった。

………。

……。

…。

       1月 14日 木曜日

畜生、畜生、畜生!

どうしてこうなるんだ。

彼女が割ったわけじゃないんだ。

しかし、それが判るのは僕と…祐一だけだ。

どう言ってごまかす? 無理だ。

廊下一面に散乱したガラスの破片。

僕一人では到底片付けられない。第一、割れた窓はどうしようもない。

教師や生徒会の連中に彼女が犯人だと決め付けるような短絡的な真似は止せと忠告するくらいだ。

だが、メンツと不安から犯人(として扱う人)を欲している連中にそんな意見は通用しないだろう。

今できる事は…けが人が出て騒ぎが大きくならないよう注意を促して回ることくらいだった。

最近は破損の頻度が増えた。魔物の出現率が高まったようだ。

それともう一つの発見があった。

飲食の形跡。

彼女はこれまで夜の校舎で何かを口にすることは無かったと思う。

放課後に掃除が行われているから、ゴミが落ちているはずが無いしゴミ箱は空のはずなのだ。

しかし、コンビニおにぎりの物と思われる海苔の破片や包装フィルムの切れ端を発見した。

祐一も魔物の存在に気付いているようだ。彼も夜の校舎に出向いている? 彼が差し入れしているのだろうか?

………。

……。

…。

放課後、職員室に彼女が現れた。

日直だったから日誌を持ってきた…わけではない。

今朝…いや、昨夜のガラスの件だった。

生徒会の連中と教師が彼女を囲む。

オカルト馬鹿教師の質問……いや、尋問……いや、異端審問というべき問いかけが始まる。

昨夜何をやっていたのか? なぜ、どうやってあんなことをしたのか? etc……

質問の全ての項目が、彼女が犯人と確定した上での内容だった。

そして彼女は沈黙を保つ。

弁解しても信じてもらえるわけないと諦めているのか、それとも……別に停学や退学になったって構わないというのだろうか?

月宮のおじさんと僕の父さんが作ったこの学校は、川澄さんにとっては何の価値も無いのだろうか?

じゃあ、川澄さんは何のために戦っているんだ?

なにか、彼女がこの学校にいられる方法はないだろうか……?

……!!

和弥「先生、ちょっと」

そう言って、オカルト馬鹿を強引に職員室の隅に引っ張り出す。

そして、確たる証拠も無いのに処分した、なんてトラブルが表沙汰になったらどうします? と、進言する。

更に、彼女が超能力を使ったなんて理屈が飛び出していたことがマスコミに知れたら物笑いの種だ、と言ったらオカルト馬鹿はたちまち慌て始めた。

こうして……。

『マスコミに発覚しても批判を受けないようなもっともらしい理屈を見つけるまで処分は見合わせよう』と言う方向に誘導することに成功した。

処分は撤回。説教だけで済まさせた。これは僕の初勝利と言っていい快挙だった。

歯噛みする連中を尻目に川澄さんが廊下に出る。

そこには佐祐理さんと祐一がいた。

心配していたらしく話が弾んでいる。

彼女は決して一人ぼっちではない、心配してくれる友達がいることを知って安心できた。

…だが、川澄さんの傍に祐一がいる事は、何故か僕の心をかき乱した。

………。

……。

…。


4話
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