生徒会室で各々持ち込んだパンや弁当を食べながら会議を進め、教師にも掛け合ってみる、というところで解散になる。

自分の教室に戻ると…

祐一「…もういいよっ!」

憮然とした顔で祐一が教室から出てくる。

教室には女生徒が呆然と立っていた。

和弥「一体何があったんだ?」

女生徒「ん? あの男子? 署名してくれ、だってさ」

和弥「署名?」

女生徒「そう。ほら、舞踏会。剣持った女の子が暴れて滅茶苦茶になっちゃったでしょう?」

和弥「…ああ」

女生徒「それでさ、さっきの男子が言うには……会場に野犬が入り込んだんで退治しようとしてたんだって」

…野犬? あの魔物をそれで誤魔化そうってのか?いくらなんでも無理がありすぎる。

女生徒「そんなわけ無いわよね。頭大丈夫かしら?掲示板荒らされてたって言うし、彼の書き込みじゃないかしら?」

和弥「は、ははは…そうかもね」

こんな行動に出るとは予想外だった。

だが、さほど影響はないだろう。僕のシナリオの方向性を修正する必要はあるまい。

………。

……。

…。

そして放課後……。

教師「川澄舞は退学、一旦決めたことを覆すわけにはいかない」

オカルト馬鹿教師はその一点張りだった。

教師「そんなにコロコロ方針変える者が信用されるわけないだろう? 信用を守るためにも退学にせねばならん」

……はぁ?

その場にいる全員が、納得していない表情だった。

そもそも、退学と言い張ってる他ならぬオカルト馬鹿教師自身ですらそうだった。

和弥「しかし!」

教師「退学だ退学! 決定! 解散!」

そう言い放って生徒会室を去っていった。

会議はわずか2、3分……いや、会議の形を成すこともなく終了し、他の役員も一人、また一人と去っていった。

役員「いくら何でも、あれだけの事をした生徒を擁護はできないよ。周りに示しがつかないじゃないか」

最後に残ったもう一人の役員もそう言って去り、僕一人が取り残された。

……くそ、あと一息だ。あと一息なんだ。

退学処分を納得していないものは相当数に上っている。

だが『名無しさん』としてはともかく、現実では立場上こうするしかないのだ。

他に揺さぶりをかける方法は……。

何か、何かあるはずなんだ。

だが、脳裏に浮かんだソレはどうしても形を成さず、焦りが募るばかりだった。

何か、何か……

       「あ、居ますねーっ」

形になりかけた『何か』は能天気な声と共に雲散霧消した。

開いたドアの隙間から佐祐理さんが覗いていた。

同行していた祐一と2、3、言葉を交わした後、彼女だけが入ってきた。

佐祐理「はじめまして、久瀬さん」

…はじめまして? 僕が判らないのか?

…仕方ないか。もう7年になる。

あれからこの前の法事まで接触を絶っていたし、法事でもお互い顔を見たぐらいで話をすることもなかった。

女装したら悲しい事に似合ってしまった頃とは、顔つきも声も成長と共にすっかり変わっている。

それに、あの時はお互い大事なものを失っていたから情緒不安定だった。

覚えていないとしても無理ないか。

和弥「はじめまして、は違和感があるね。あなたの噂はかねがね聞いてるから」

佐祐理「あんまりいい噂ではないでしょう?」

…やっぱり判らないか。

和弥「そうだね。よくはないね」

 生徒会では彼女の名は苦笑とともに語られる。
 彼女の父である『倉田のおじさん』は、確かに肩書きが『議員』である。
 従って、その娘である佐祐理さんは『議員のお嬢様』ということになる。それ自体は間違いではない。
 それゆえに生徒会は『議員の権力』を期待して強引に彼女を引きずり込んでしまった。
 だが、生徒会は彼女をもてあました。

『あははーっ♪』
『あはははーっ♪』
『あははははーっ♪』
 失礼ながら、彼女はあまりにも脳天気で役員としてははっきり言って不適格であり、生徒会は大混乱に陥ったらしい。

 役員の一人が、彼女の父親の権力が目当てだったと口を滑らせてしまっても……
「はぇ? 佐祐理のお父様はただのおじさんですよ?」
 と、無頓着だったらしい。
 もっとも、彼女は父について無自覚でもなんでもなく、『倉田のおじさん』の娘として父のことをきちんと理解したうえでの発言だった。
 だが、生徒会の連中は謙遜だ、と勝手に深読みする。
 こうして益々『議員のお嬢様』としての評判は広まることになり、生徒会を追い出すに追い出せなくなってしまった。

 そんな矢先、川澄さん(と戦っていた魔物)が窓ガラスを割る事件が発生し、川澄さんは犯人として槍玉に上げられた。
 そして、生徒会役員なのにそんな不良をかばうという『不祥事』を起こしてくれたおかげで……
 ようやく周りの人間を納得させつつ佐祐理さんを辞めさせることができたのだった。
 もっとも、反生徒会の連中が深読みしてますます変な物語が出来上がるのだが。

佐祐理「とりあえず、そのことは置いておきまして」

和弥「ああ」

佐祐理「今日は署名を戴きに参ったんですよ」

和弥「どういった趣旨のものかな。と言っても、概ね想像は付くけど…」

祐一が募っていたあの署名か。

佐祐理「じゃ、話が早いですね」

和弥「確かに早いね」

もう、そんなものではどうにもならないんだ。

佐祐理「舞踏会での舞の行為に関して、私たちの見解です。えっとですね…」

和弥「倉田さん、違うよ」

この状況では、名字で呼ぶべきだろうな。

佐祐理「はい?」

和弥「話が早いというのは、僕の理解がじゃない。その逆」

佐祐理「協力してくれないんですか?」

佐祐理「話を聞いてください。そうすれば絶対に納得できますから」

僕だって川澄さんが魔物と戦っていることぐらい知っている、納得ならできてるさ。だが。

和弥「どんな真実があろうと、生徒会は彼女を弁護しないよ」

『生徒会』という組織、そしてその組織に属する人間としては……ね。

祐一「じゃあ、それは不正だな。差別だ」

外で待っていた祐一が怒気をはらんで言い放った。

まあ確かに、一所懸命集めた署名を無下にされ、友人(?)の味方もしてくれないのだから腹も立つだろう。

しかし、しかしだ。

君は、あゆを放ったらかしにして何を言っているんだ?

佐祐理「祐一さん…」

祐一「そこまで自覚してるのか?」

ああ、自覚しているさ。表向きは問題行動、しかし実際は非科学的な理由での退学なんて許せない。

だが。

和弥「違うね。きっかけはなんでもいい、ということだよ」

怖いんだ。みんな。

科学では説明できない化け物がいる。

だが、そんな非現実的な事を『事実』として受け入れて行動したらどうなる?

病院の精神科を紹介されるのがオチだ。

そんなときに、怪しい要素を大量に抱えた人物がいたらどうなる?

魔女狩りだ。

どんな出来事も魔女の仕業にこぎつけ、攻撃する。

自分が安心するために。

和弥「結局総じて、彼女はこの学校に居るべきじゃない」

和弥「その点に関しては正当な価値観を持っての判断だよ」

『手のつけられない不良』と解釈される要素が揃いすぎている。

それに、あの番組を真に受けたオカルト馬鹿や、保身しか頭に無いサラリーマン教師、体制に逆らえばかっこいいと思い込んでいる反体制バカ……

彼女を『魔女』に仕立て上げる異端審問官が沢山いる。

せめて、別の学校の生徒ならどうにかなったんだ。

祐一「ひとりの生徒も弁護してやれないのか? じゃ、なんのための生徒会だ?」

和弥「真面目な生徒たちのための生徒会さ」

周りから自分への『真面目』という評価を守る為ならどんな卑怯な事でもやる、大人の言いなりの生徒のためさ。

佐祐理「………」

祐一「舞が不良だっていうのか?」

祐一が詰め寄ってくる。

おいおい、客観的に見れば君も不良と判断されるぞ。

和弥「生徒会では有名だよ。彼女の素行の悪さを知らないものはいない」

『素行が悪い』そう解釈しうる行動を知らない者はいない。

祐一「ばぁか、素行ってのは普段の行いのことを言うんだよ。あいつが先生たちを困らせるような何をしたっていうんだよ」

和弥「ガラスの件だけで充分だろ。基本的な不良学生の行いだ。それも一度や二度じゃない」

祐一「どうしてそこに理由があると考えられないんだよっ!」

その理由が非科学的だ。事実としてそれを受け入れ、行動できる者はそうそういないよ。

彼は僕を壁に追いつめ、その壁に拳を突きつけた。

彼の後ろを見る。廊下から覗いている者はいないようだ。

運がよかったな。目撃者がいれば、君はれっきとした『不良』と解釈されるだろう。

和弥「理由があろうが、やっていいことと悪いことがあるよ。違うかい」

彼女が、『悪いこと』をした。そう解釈するのが対外的に一番つじつまを合わせやすい状況なんだ。

祐一「学校のガラスぐらいがなんだってんだ!?もっと大変なことが起きてるかもしれないだろっ」

和弥「軽視してもらっては困るな。教育社会の秩序の象徴なんだよ、窓ガラスとは」

だから、せめて窓ガラスが割れることが無ければ何とかなったかもしれないんだ。

祐一「おまえが守りたいのは、学園の秩序じゃなくて、外面だろうっ!」

 僕という個人ではなく生徒会という組織としては確かにそうだ。
 生徒会に入ったばかりの頃、実家の物置きの整理をしていたとき棚の上に仕掛けていたネズミ捕りのトリモチが頭に落下して取れなくなり、丸刈りにする羽目になったことがある。
 ちなみに愛猫の舞は、物置に設置していたトリモチにかかったネズミを食べようとして、自分までトリモチにかかった間抜けな経歴の持ち主であり、そこを保護され我が家の飼い猫となった。
 それがトラウマなのか物置には近寄ろうともしないのだった。
 僕はあまりおしゃれという行為に興味が無かったので構わなかったが、生徒会の連中が大いに構った。
 不祥事を起こしたのかと誤解される。というのだ。
 こういう連中だ。校舎の窓ガラスが割られたら、どう反応する?

 知識としては、丸刈りが謝罪の意思表示のひとつだと知ってはいた。
 だが、当然ながら謝罪しなければならないような行為はしていない。誤解されたなら、それを解けばいいだけの事なのだ。
 あの時そう言ったら、今度は……
 丸刈りは、『学生らしさ』というあいまいな価値観を押し付ける管理教育の象徴である。
 長年にわたる運動により、野球部ですらスポーツ刈り程度で済むよう校則を緩和させたのだ。
 そうやって先輩たちが代々苦労して手に入れた自由を放棄するのか?
 などと言い出した。
 自由というなら丸刈りにするのも自由だろうに。
『自由』を謳歌することを『強制』するってのは矛盾してないだろうか?
 どうにもこの生徒会はおかしいと思う。つくづくそう思う。
 もっとも、髪型については個性の表現云々以前に人物の区別に不可欠という主張により自由化されたそうだ。
 そんなもの顔見りゃ解ると思うのだが。
 先ほどの話をした先輩にそう言ったら……
 例えば、ここにいる面子を男女問わず同じ服装にして、頭を完全に剃ったらどんな光景になる?
 そう聞いてきた。
 そんな事したって誰が誰なのか解る……と、思う。
 しかし、その光景を想像するのは何故か畏れ多い気がしてできなかった。

ぎりっ、と祐一に襟元を掴まれて我に返る。

祐一「佐祐理さんの談判で折れていなかったことを後悔させてやろうか?」

ほう、ずいぶんと鼻息が荒いじゃないか。

あゆの事は、奇麗さっぱり忘れてのける冷血漢のくせに熱血ぶっちゃって。

和弥「そして川澄さんの後を追うかい」

『姐さん、地獄の底までおとも致しやす』…とか言ってさ。

そうやって退学になって、佐祐理さんをひとり残すのかい?

佐祐理「祐一さんっ!」

佐祐理さんの声で僕が冷静になる。

計画が破綻した焦りで、どす黒い感情が芽生えていた。

祐一「悪いっ…」

多分佐祐理さんに対してだろうけど、祐一は謝罪して離れる。

だが、こっちはどす黒い感情がまだくすぶっている。

目を合わせようものなら祐一に殴りかかる衝動を抑える自信が無いので目をそらす。

和弥「倉田さん…確かにあなたの行動は理解し難いよ。どうして、あんな生徒を庇い続けるのか」

佐祐理さんも、まだ庇護する対象を求めているのだろうか?

佐祐理「舞は親友ですから」

和弥「なるほど。よく聞いた台詞だ」

やはりそうか。

弟、そして弟と同じ名前の男、その次が『親友』か。

激しい苛立ちを感じる。

だが、それが理不尽なものであると判断する理性は残っていた。

このままここにいてもどうにもならない。まずは頭を冷やさねば。

鞄を机から拾い上げ、戦場を離脱する。

考えろ。考えろ! 考えろ!!

自分がするべきことは? 物事の優先順位は? そして、実際問題として何ができるか?

と、その時目に入ったのは……

彼なら何か、この状況を打破できる情報を持っているかもしれない。

彼も、魔物の攻撃を受けたのだから。

和弥「…ちょっといいかな?」

男子生徒「ん? あ、ああ」

和弥「君、舞踏会の時に美坂さんと一緒に居た…」

男子生徒「北川…だけど、栞のことを知ってるのか?」

知っているも何も、僕の今の地位は彼女のおかげだ。

応急処置の講習会を開催した経緯を説明した。

僕の行為は…まあ、結果としては『善行』と表現して差し支えはないかもしれない。

だが、それを人に話して聞かせるのはかっこ悪いような気がする。

でも、質問に答えないわけにもいくまい。

これから情報の提供をしてもらうのだから。

北川「…ありがとう」

和弥「…? 何で君が礼を?」

栞さんのために行った事でなぜ北川君が?

と、その時、舞踏会であの惨事が起こる直前の抱き合ったふたりの光景を思い出す。

学業復帰の手助けをしているうちに、そういった感情が芽生えてもおかしくはない

逆に、そういった感情を抱いていたから学業復帰の手助けをしていたのかもしれない。

いずれにせよ、ただの友人…以上の関係になっていたからこそ、ふたりで舞踏会に参加したのだろう。

和弥「…なるほどな」

北川君の肩をバンバンと叩いて茶化した。

廊下で長話するのもなんなので学食へ行く。

そこでは……

栞さんが同学年の女生徒と談笑していた。友達もできたか。順調にクラスに溶け込めているようだ。

北川「ところで…」

彼はさっき生徒会室に乱入した『クラスメイト』である祐一の事を聞いてきた。

何らかの処分を受けるのではないかと心配してるようなので、そのつもりはないと説明する。

やはり退学者や停学者が出るという事実は生徒会の失態だし、個人的にもそうするつもりは無い。

北川「だとしたら、その額のガーゼは一体…?」

……!

和弥「これか? 昨日…ちょっと、ね」

昨夜の光景を思い出す。

川澄さんの、祐一と一緒にいたいという言葉。

祐一も牛丼も『嫌いじゃない』こと。

そして、もしかしたら…差し入れしてくれるなら彼女は誰でも『嫌いじゃない』可能性。

僕も彼女の庇護の対象となる事。

怪我を手当てしてくれた事。

額の傷口を舐められた事。

心臓の鼓動が高鳴る。

なぜだ? やっぱり僕は……?

北川「殴らなかったとしても、脅したわけだろ?」

我に返る。お、落ち着け、落ち着け。

和弥「まあ、仕方ないだろ」

そう言って芝居がかった仕草で肩をすくめた。

和弥「立場上、彼らの敵に回らざるを得なかったし、役員としての言葉は辛らつな物になってしまったけど」

和弥「彼も、川澄さんに特別な感情を抱いているようだからね」

そうだ、祐一が今好きなのは川澄さんだ。そうなることを僕に責める資格なんて無い。

和弥「僕だって彼の立場なら…」

和弥「…僕なら本当にぶん殴ってただろうな」

ぱん! と、拳を手のひらに当てて笑った。

お互い、様々な意味で似てるんだろうな。僕たちは。

とりあえず、話を本題に戻す。

北川君と栞さん。ふたりの舞踏会での出来事について訊く。

魔物の攻撃を受けたとき、なにか気付いたことはないだろうか?

なにか、連中に揺さぶりをかける材料はないだろうか?

だが、彼から新しい情報は得られなかった。僕が見て取った以上の要素は聞き出せなかったのだ。

だが、彼も当事者であり、協力を求めた相手だ。情報を隠したままにしておくのはフェアではないので話しておく。

窓ガラスをはじめとする彼女の仕業とされている数多くの破損の不自然な点。

いかにしてこの学園内の勢力争いに巻き込まれ、今の状況に至ったか。

そのとき、あることに気づいた。

彼女はこの学校にいるべきではない…そう言ったのだが、考えてみたらこの学校で正解だったと言えるだろう。

彼女がこの学校の生徒だからこそ『銃刀法違反』を学園総出でもみ消すことになり、警察に突き出される事態を回避できたのだ。

北川「…そうか。力になれなくて済まない。それじゃあ…」

有力な情報を提供できなかったことを済まなく思っているようだ。

だが。

和弥「いや、うやむやにはできるだろう」

北川「へ?」

和弥「本心では『目に見えない何か』に気づいて怯えている者は少なくない」

和弥「そして、それと戦う川澄さんがここを出ていけば余計にまずい事になる…と、考える者もね」

和弥「だから川澄さんを復学させたい…が、それぞれの立場上、そうする訳にもいかない」

北川君に状況を説明するうちに、自分が持っている交渉のカードを整理することができた。

和弥「大体、現実に認める訳にはいかないだろう?『目に見えない怪物と戦う剣士』…なんてRPGみたいな話」

和弥「だから、『問題があった生徒が剣を手にして暴れた』という分かり易い話を信じる事になった」

それに対して、さらに揺さぶりをかけるカードがあったのだ。

北川「…なるほど」

和弥「その上で、だ」

北川「その上?」

和弥「更なる分かり易い話をでっち上げ、みんなでその茶番に乗って納得することにした」

北川「茶番?」

和弥「ああ。公演は明日の放課後だ」

和弥「あんな事言った後で虫がいいかもしれないけど、これから主演女優として倉田さんに出演を依頼しようと思う」

和弥「川澄さんに危険な思いはさせたくないが、他人に手出しは出来そうにない」

夜の校舎に立つ資格があるのは、魔物と戦う『力』を持った『選ばれた剣士』だけなのだ。

和弥「第一、教師が退学にしても、僕が止めても、川澄さんが戦いをやめることはなさそうだ」

魔物の討伐は『力』を持つ者の宿命なのだろう。

和弥「だから他人である僕にできることは、余計なことで川澄さんを煩わせないことだけだと思う」

でも、最後にもう一度だけ。

彼女が学園に戻って祐一が夜の校舎に来るようになるまでに、もう一度だけ差し入れに行こう。

ねぎ多目玉子つきの牛丼を、差し入れする約束をしたのだから。

北川君には変に騒がないで『茶番』を受け入れるように頼んでおく。

僕が書いたシナリオに、これ以上キャラクターが増えたら収集がつかなくなる。

和弥「話、長くなって悪かった。デートの邪魔してすまない」

そう言って立ち上がり、ずっと待っていた栞さんにウインクして立ち去る。

さあ、忙しくなるぞ。

北川「なあ、久瀬」

和弥「何だい?」

呼びかけに足を止め振り向く。

北川「相沢の処分について聞いた時、『彼も川澄さんに特別な感情を抱いている』って言ったよな?」

和弥「……?」

確かに、そう言ったけど?

潤「彼も…って事は、久瀬は、川澄先輩が…」

久瀬「……!!」

彼も? も? た、確かに僕はそう言っていた!そういうことは、やっぱり僕は!?

和弥「こ、こここ、この話は他言無用だ!」

離脱する。

そんなことはない、そんなことは!

それに……そんな噂が立ったら彼女に対する僕の弁護に説得力が

足に激痛が走った。消火器に足が引っかかってしまったようだ。

………。

……。

…。


7話
戻る