8.モノミの丘

 あの祭りから三日が経った。
 収穫も終わり、手持ち無沙汰となった蜩は妖狐の里近くの川で、若い妖狐達と川釣りを楽しんでいた。
「わあ、蜩のおじちゃんこれで十匹目だよ」
「魚を釣るにはこちらの気配を悟られないようにしなくてはな」
「よーし、負けないぞ」
 ばしゃあ。
「よっしゃ八匹目!」
「うぐぐ、何でサジはそんなに魚釣るのがうまいんだよ……」
「あ、おっきな魚!」「ウルが捕まえる!」
 ざっぱーん。ばしゃばしゃ。
「あ、こらサナ、ウル! 川の中に飛び込むな、魚が逃げる」
「サジ達が叫ぶから、もう逃げてるよ」
「ていうか、ウルが流されてるぞ」
「わわわっ、やばいって。追っかけろ」
 慌てて駆け出した少年少女三人の背中から腕が伸び、釣竿が流された子狐ウルの口の手前に突き出される。
 溺れる者は藁をも掴む、の要領ですぐさまそれに食らいつくウル。
 ウル漂流騒動は一瞬でその幕を閉じた。


 のびのびとした時間を過ごして里に戻った蜩達を待ち受けていたのは、里の反対側から走りこんでくる紅葉の姿であった。
「大変だよ! ソレガシさん、モノミとミワナさんはどこだい!?」
「どうしたのだ、紅葉殿。何があった?」
 ただならぬ紅葉の様子に、子供達の頭を撫でていた蜩の表情も強張る。
 そこに、紅葉の叫び声を聞いたのだろう。
 ミワナの家からモノミとミワナ、更に他の家からも他の妖狐達が姿を現した。
「なんじゃ、騒々しい。お主は喧しいから里に来るなと言ったじゃろうが」
「そんなことは分かってるよ。でも、そんなこと言ってる場合じゃないんだ」
「ミワナ、紅葉の様子が変だ。ここは話を聞いてあげようよ」
「うむ……そうですな。して、何があった紅葉殿」
 ミワナに促された紅葉だが、すぐには言葉を口にできない。
 村からここまで全力で走ってきたのだろう、呼吸が切れている。
 しばし、深く吸気を行った後、紅葉は叫んだ。
「領主の坪内様が、狐狩りを……妖狐を皆殺しにしろって命令したんだ!」
「な、なんじゃと!?」
 かっと、目を見開き、驚愕の叫びを上げるミワナ。
 ミワナだけでなく、その場にいた者の全てに衝撃が走る。


 紅葉の話はこうだ。
 祭りの後に領主の坪内鬼六が戦の準備を家臣に告げた。
 しかし、その戦の準備として指示された狐狩りに、家臣の一人が葛藤の末に切腹して果てたというのだ。
 家臣の命を懸けての諌めに鬼六が狐狩りを見合わせるかと思いきや、事は最悪の方向へと発展する。
 俺のためではなく、狐ごときのために死にやがるとは何事だ!?
 烈火のごとく怒り狂った鬼六は、家臣を惑わす魔性の生き物、妖狐の撲滅を指示。
 罰を恐れぬどころか、『なぁに、それほど立派な霊獣の毛皮ならさぞ暖も取れるに違いねえ』とまで言ってのける始末である。
 坪内鬼六という男は、確かに家臣の忠誠には男気で応える立派な男であった。
 しかし、反面、神仏といったものを全く信じず、信ずるのは己のみであるという欠点があった。
 自分を信じてついてくる者には飴を、そうでない者には鞭を、ある意味、一本気で分かりやすい男とも言えるだろう。
 しかし、今回の場合彼の性格がとにかく悪い方向にばかり向かった。
「馬鹿なことを。我ら妖狐は魔の者。死ねば肉体は残らぬ」
 ミワナが吐き捨てるが、それが無意味であることは彼自身よく分かっていた。
 鬼六の怒りは、二君に仕えるがごとき家臣の態度であるのだから。
 既に彼は目前の戦ではなく、妖狐狩りしか考えていまい。
「今、村の人たちが坪内様のお城に押しかけて、止めるように嘆願に行こうって相談してる」
「なっ、ならん! それはならん!」
 紅葉の言葉を聞いたミワナは顔を真っ赤にして叫んだ。
 そんなことをしたらどうなるか?
 怒り心頭の鬼六は嘆願に向かった村人を斬り殺すかもしれない。
 いや、十中八九そうなるだろう。
「こうしてはおれん。モノミ様、村人を止めにいきますぞ」
「えっ?」
「我らが止めねば、我らのために村人達が血を流すことになりますぞ」
「あっ……」
 ミワナの焦りの理由に気付き、モノミは目を丸くする。
 他でもない、自分達妖狐の為に、何の罪もない村人達が殺されるかもしれないのだ。
 それを止めるのは、妖狐である彼女達自身が『嘆願を望んでいない』と言うしかない。
「ミワナ殿、某も参ろう。そなたの足は遅い、某なら担いで走れる」
「すみませぬ、蜩殿」
 深く頭を下げて、蜩の背に背負われるミワナ。
 それを見てから、モノミは紅葉に振り返った。
「紅葉、村のみんなのところに案内頼むよ」
「ちょっと待ったモノミ。ここもそろそろヤバイよ。里の人たち残してく気かい?」
「っと、そうか。どうする、ミワナ?」
「あの鬼坪がそう簡単に気を鎮めるとは思えません。ネネム、マミミ」
 ミワナに名前を呼ばれた、若い、と言ってもモノミに一番近い年長の男女が前に進み出る。
「それぞれ東と西からこの村を脱出するのじゃ。もうこの地に戻ってはならぬ」
「しかし……」
「私とモノミ様も後で脱出する」
「分かりました。どうかご無事で」
「うむ」
 モノミとミワナ以外の妖狐達は、それぞれ東と西へと分かれて里を離れて行く。
 全員が出て行くのを見届けた上で、ミワナは蜩の背から言った。
「紅葉殿、急ぎ我らを村人の下へ案内して下され。蜩殿、少々重いですが、頼みますぞ」
「ああ、じゃあ行くよ。ソレガシさんもちゃんとついて来るんだよ」
「心得た」
 四人は頷き合うと、村へと続く道を駆け下りた。


 辛うじて村人の暴走を食い止め、里に帰ってきたモノミ、ミワナ、蜩の三人を待ち受けていたのは、恐るべき光景だった。
 煙を上げる家々、荒らされた広場。
 モノミ達の不在中に何者かがそこを荒らしていった証に他ならない。
 その広場の真ん中に、妖狐達が傷つき震えながら身を寄せ合っていた。
 それは紛れもなく、先ほど里から脱出したはずの者達だった。
 東の者も西の者も含まれているが、その数は明らかに出発前より減っている。
「……モノミ様、ミワナ様」
「ちょっと、どうしたんだい!? ネネムは? サジは? 他の者はどうなったんだい!?」
 肩で息をしている、比較的年上の一人の腕を掴んでモノミが叫ぶ。
 だが、その答えは聞くまでもない。
 彼の右腕に食い込んだ矢が、何が起こったかを物語っていた。
「山を降りたところで、鬼坪の手勢が……ネネムとサジとマリブがやられました。他は、分かりません。まだ逃げ回っているのか、やられたのか……」
「もういい! もういいから、黙って。傷にひびくだろ……」
 モノミは大粒の涙を流し、地面を叩いた。
 それは、何に対する怒りだろうか?
 自分の無力さか、坪内鬼六の非情な仕打ちか、それとも、事態を招いた自分の不甲斐なさか。
 モノミはしばらく、妖狐達と蜩が見守る中で泣き続けた。


 やがて、よろよろと立ち上がったモノミは蜩とミワナに背を向けたまま呟く。
「ねえ、アタシが間違ってたのかい? アタシが人里なんかに下りたから……」
 人々が妖狐や狐を守ろうとしたのは、モノミを知っていたからこそ。
 そしてまた、坪内鬼六が妖狐を憎悪したのも、モノミに人々が恩義を感じていたから。
 モノミが人里に下りなければ、人間と妖狐は無干渉でいられたはずなのだ。
「……全部、アタシのせいだ」
「モノミ様!」
 自虐の言葉を口にしたモノミをミワナが怒鳴って咎める。
「誰が間違っていたかなど、大局において決められるのは後の世の者だけです。モノミ様は、完全に断たれていた我らと人の間を繋いだ。あの祭りの日を間違いだとモノミ様は思われるのですか?」
 モノミは首を振ってそれを否定する。
 あの祭りにいた者、誰もが人と妖狐の関係を間違っていたなどと思っていないだろう。
 と、今度は蜩が一歩踏み出して、モノミの涙を拭ってやった。
「モノミ殿は間違ってなどいない。狐狩りは戦のため。鬼六とやらの思い通りに狐狩りが進めば、多くの血が流されただろう」
 モノミと蜩の視線が交錯する。
 だが、しばらくしてモノミは何も言わず視線を逸らした。
 そして、顔を隠すかのように蜩、ミワナに背を向ける。
「でも……アタシが正しいなんて言えないだろ」
 彼女の悲痛な呟きに答える者はいない。
 下手な慰めなどモノミは欲しないだろう。
 また、その場にいるものは、皆が正直者に過ぎた。
 誰も、このような事態など願ってはいなかった。
 ただ、毎日がささやかな幸せで満ちていればそれで良かった。
 なのに、どうしてこんなことになったのだろうか?
「モノミ様、どちらに!?」
 突然、傷ついた子供を抱きかかえて歩き始めたモノミをミワナが呼び止める。
 モノミは振り返らず、感情を押し殺した冷たい声で答えた。
「鬼坪はまたやってくるかもしれない。向こうの洞穴に隠れて、みんなの治療をする。紅葉達に頼めば村の外にも逃げられるはず」
 モノミは振り返らない。だから、彼女がその時どんな顔をしていたか、誰も分からない。
 彼女が抱いた子供も、怪我と恐怖から意識を失っていた。
 おそらく、彼女は大声を上げて泣きたかっただろう。
 泣き叫んで、自分の頭を近くの木に叩きつけたかったかもしれない。
 しかし、彼女は里の長であり、ミワナを除く妖狐の中では最年長者である。
 だから、彼女はこれ以上泣けなかった。
 彼女が泣き続けていては、傷つき震える子供たちは頼るものを失ってしまう。


 モノミが洞穴へと姿を消すと、まだ歩ける者達は怪我人に手を貸しながら後に続いた。
 広場に残されたのは、蜩とミワナのみ。
 男二人は、何も言わずモノミの消えた先を見つめ続ける。
 今、自分がすべきことは何か? 今、モノミにしてやれることは何か?
 その自問自答の中に二人はいた。
「ミワナ殿、これからどうされる?」
 ぽつり、と蜩がミワナにそう訊ねる。
「若い者を逃がし、私は最後までモノミ様のお傍を守り続ける所存でございます」
「そうか……やはりモノミ殿は……」
「ええ、モノミ様はこの地を離れることは出来ません。あの方は、土地神でございますから」
 村に向かった際、『後から行く』と言ったモノミとミワナの顔が心痛に満ちていたのを蜩は見抜いていた。
 正直者が、止むに止まれず嘘をつく、二人はそんな顔をしていたのである。
 モノミはここから逃げることは出来ない。
 だが、鬼六が何より求めているのはモノミの命である。


 ざっ、と引きずるような重い足音を立て、蜩がモノミの向かった洞穴に背を向ける。
 彼は何も言わず歩き始めた。
「蜩殿! どこに行かれるか!?」
 目を見開き、驚きの形相でミワナが蜩の背に声をかける。
 彼は見てしまったのだ。背を向ける瞬間、ちらりと見えた蜩の横顔。
 そこに怒りの化身、阿修羅が宿っていたのを。
 ミワナの叫び声に蜩がゆっくりと振り返る。
 だが、そこにいたのは、いつもの穏やかで素朴な彼だった。
『今日は死ぬには良い日和だ』
 そんな冗談でも飛ばすかのように、彼は微笑んで言った。
「某は退魔士。鬼の退治に行かねばな」
「……蜩殿」
 止める事は出来ない。
 蜩の穏やかな顔の奥に秘められた決意が、ミワナにはありありと感じられた。
 おそらく、彼自身若ければ蜩に同行したに違いない。
 モノミには言ってはならない、許されざる行為。
 決して、モノミはそのようなことを許しはしないだろう。
 それでも、そこまでしても、彼らはモノミを守りたいと思っていたのだ。
 そして、おそらくそれが事態を収める、唯一の特効薬的効果を持つ手段だろう。
「……その刀を、蜩殿に渡すのではなかった」
「稲荷守か。この刀を持つ者の定めだったのかもしれぬな」
 狐を守る、そう名付けられた刀が蜩の腰にある。
 村に出る前に、万一の事態に備えてモノミの家より差してきたものだ。
「御武運を……いえ、必ず帰ってきてくだされ。私は、また蜩殿と笛を吹きとうございます」
「任せておけ。鬼とは戦ったことはあるが、容易い相手であった」
 目に涙が浮かぶのを、必死で堪えるミワナ。
 それを感じ取ったのだろう。
 蜩は再び背を向け、今度は振り返らずに里を去っていく。
 その後姿が見えなくなっても、ミワナは目を離すことができない。
 彼の目には、熱い涙が止めどなく流れ出ていた。


 帯刀し悠然と歩いてくる男の姿に、門番の二人は慌てて槍を構えた。
 戦を前に見知らぬ者がやって来たのだから当然の警戒だろう。
 何より、使者にしてはあまりに態度の大きい歩の進め方が不審であった。
「止まれ! 坪内鬼六様の城に何用だ?」
 男は突きつけられた二条の槍を意に介せず、門の先にある城と呼ばれた屋敷を見回す。
「なるほど……こうして間近で見ると大きいものだな」
「貴様、一体何を言っている?」
 門番が槍を突く動作を行い、男を威嚇する。
 しかし、男はそんな門番の行為を一笑にふして言い放った。
「某は退魔士の蜩。ここに棲む、鬼坪なる鬼を退治しに参った」
「き、貴様! 曲者かっ!?」
 蜩を敵と認識し、門番が左右から同時に槍を突き出す。
 しかし、まさか一人で城に討ち入りをかける者などいないと思っていた油断がいけなかった。
 その油断が、二人の槍に一呼吸ほど遅れを生じさせる。
 それだけで蜩には十分だった。
「がはっ!?」
「ひぃぃぃっ!?」
 何もない虚空で交差する二条の槍。
 その次の瞬間、門番たちは首筋から鮮血を噴出して倒れた。
「曲者だっ! 門番がやられた!」
 叫び声と同時に、門の右側に築かれた見張り櫓から矢が飛ぶ。
 しかし、蜩は振り返りもせずに、血払いの動作でそれを斬って落とした。
 同時に、倒れた門番が差していた小刀を引き抜き、見張り櫓上の見張り目掛けて投げつける。
「ぐっ!? ぎゃあああああっ!」
 小刀は見張りの喉を直撃し、前のめりに倒れた見張りは柵を乗り越え、櫓から断末魔の叫びと共に落下した。
 まるで話になっていない。
 鬼や大蛇をも相手にした蜩にとって、雑兵などものの数ではなかったのだ。
「す、すげえ……」
 後ろから、その一瞬の攻防に感嘆の声が上がる。
「伏兵か!?」
「うわっ! 待ってくれ旦那、あっしらは味方だ」
 凄まじい形相で振り返り、刀を構えた蜩に後ろの三人が尻餅をつく。
 そこにいたのは、竹槍を持った次郎に弥助。
 そして、今日、蜩が一緒に釣りをしていたコムという妖狐の少年である。
 敵ではないと分かって、蜩は肩の力を抜く。
 三人は、胸を撫で下ろして立ち上がった。
 あんな瞬殺劇を見せられて、その人物に睨まれては彼らもたまったものではないだろう。
「お主達か。何をしに来た?」
「へへ、旦那が坪内様の城について村で聞いて回ってたのを聞いたんでさあ」
「モノミ様をお守りしたいのは蜩の先生だけじゃないですぜ」
 竹槍を手に、笑ってみせる次郎と弥助。
 しかし、蜩は二人が震えているのを見逃さなかった。
 いくら強がっても彼らは所詮農民。
 人斬りの経験もなければ、蜩のような修羅場を潜り抜けた自信もない。
 それでも彼らは、モノミの恩に応えるためにこの場に駆けつけたのだ。
 坪内鬼六の城は、戦準備と狐狩りで手薄になっているとはいえ、警護の兵は強者揃い。
 まともな戦い方すら知らぬ次郎と弥助が討ち入ったならば、ほぼ確実に命を落とすだろう。
 だが、蜩は二人を帰そうとはしなかった。
 いかに震えていても、この場に武器を持って来た時点で彼らの意思は固いに違いない。
 既に屋敷内に蜩の侵入は伝わっている。
 いかに蜩と言えども、大勢の手練に囲まれては勝ち目はない。
 つまり、門前で説得をしているような時間は全くなかった。
「コム、お主は何故来た? モノミ殿が心配するぞ」
 人間の二人から、今度は妖狐の少年に視線を向ける。
 幼さが顔に滲み出ている彼だが、両の手に匕首を持ち、恐れている様子はまるでない。
 いや、むしろその顔は蜩以上の怒りに満ちていた。
「あいつら、サジを殺したんだ。オイラの親友のサジを」
「……復讐か」
 それは蜩にとって決して歓迎できる感情ではなかっただろう。
 しかし、今はそのようなことを論じている暇はなかった。
 手にした稲荷守で屋敷を指し、蜩の大声が戦いの口火を切る。
「敵は鬼坪ただ一人! 逃げる者には構うな、行くぞ!」
 叫ぶと同時に、屋敷の中へと飛び込んでいく蜩。
 次郎が、弥助が、コムがそれぞれ自らを奮い立たせる雄叫びを上げてその後に続いた。


 寝耳に水の襲撃を受けて、屋敷の中は大混乱に陥っていた。
 軍馬の音も、大勢の人間の気配も無い。
 まさか、たったの四人で城への正面突撃をかける輩がいるなど誰が考えようか?
 しかも、城は大半が出払っており、中には門番、見張りを含め五十余名ほどしか詰めていなかった。
「うっ!? こいつらが!?」
 曲者と叫びを受けて、城の正面入り口には八人が駆けつけていた。
 まともに戦えそうなのは剣豪然とした男のみ。
 ほか三人は、腰の砕けかけた農民二人と、年端もいかぬ少年である。
 正気の沙汰とは思えぬ討ち入りに、坪内の家臣達は得体の知れぬものを感じて一歩引いて身構える。
 精神的な優位に立ったのは蜩達の方であった。
「用があるのは鬼坪のみ。歯向かうならば、斬る」
「おのれ、斬り殺せ!」
 八人が同時に襲いかかる。
 しかし、襲撃など予想もしていなかったためか、彼らの装備は門番以上になっていなかった。
 普段は弓や槍を使う者も混じっていただろう。
「なっ!? か、刀が!」
 しかも、鎧を着込んだ相手を倒す癖から、大振りに振られた刀は天井の梁に引っ掛かかる。
 野太刀など狭い室内で振り回すものではない。
「うわああああっ」
「ひいいいいいっ」
 刀に気を取られて混乱している家臣を、悲鳴のような叫び声と共に突き出された次郎と弥助の竹槍が貫く。
 いかに武士とはいえ、虚をつけば農民でも殺せるということだ。
「ぐあっ!?」
 と、同時に、今度は逆に回りの障害物を気にし過ぎて刀を思うように振り回せないでいた家臣が悲鳴を上げて地面に転がる。
 コムが足の腱を匕首で掻っ切ったのだ。
「サジの仇!」
「ぐふっ!」
 容赦なく喉元にトドメの匕首が叩き込まれる。
 妖狐達は、人斬り稼業はしていないとはいえ、元の狐がそうであるように狩猟生活を基本としている。
 傷ついた動物にトドメを刺すのは慣れたものだった。
「刀は振るな! 突け! 突くんだ!」
「やらせぬ」
「ぐわあああ!?」
「がふっ!」
 屋内での戦いに対策を講じようとした家臣たちだったが、それを見逃す蜩ではない。
 瞬く間に、突きの構えを取ろうとした眼前の二名の急所である首筋を切り裂く。
 彼ほどの熟練者ならば屋内であっても十二分に刀を振ることができる。
 いや、本来野外での集団戦闘を重きにしているこの時代の武士と違い、蜩は刀の扱い、それだけに長けていた。
 戦では役に立たないだろうが、この屋内という限られた空間ではそれは十分な脅威となりえたのである。
 蜩自身、それが分かっているからこそ真っ先に城の中へと飛び込んだ。
 また、助太刀を買って出た三人の武器も槍に短刀と屋内で効果を発揮する武器である。
 残された家臣たちは、すぐさま自分たちの不利を悟った。
「くっ、退け。槍と弓を持ってくるんだ」
「他の者に報せろ!」
 無謀な戦闘を避け、その場を逃げ出す家臣たち。
 その判断は決して間違っていないだろう。
「このまま固まっていては狙い討ちに遭う。四手に分かれるぞ。鬼坪を討った者は、他の者に構わず逃げ出せ。他の者の為に、無益な殺生を重ねる必要はない」
 生きて帰れる保証はどこにもない。
 ここにいるのは既に死を覚悟した者だ。
 だが、目的を果たせば、死ぬ必要はない。
 逃げ帰っても仲間を見捨てたことにはならない。
 ましてや、仲間を助けるために、ただ坪内鬼六に仕えているだけの家臣を殺すこともない。
 蜩の言いたかったことはそういう事だった。
 その言葉に、少年コムはすぐに頷いたが、次郎と弥助は震える手を上げ、何かを言いたそうな顔で蜩を見つめる。
「だ、旦那……あっしらは二人一緒でいいですかい?」
「オラも……し、死ぬ時は次郎と一緒と決めてんだ」
 二人の怯えぶりは、これから人とやり合おうという人間のそれではない。
 ほとんど蛇に追い詰められた蛙の兄弟といった有様だ。
 その様子があまりに滑稽だったからだろうか?
 蜩は、笑って言ったのだった。
「好きにするといい。これから死ぬ人間が遠慮をするものではないぞ」
「へ、へい。ありがとうございます」
「すまねえ、蜩先生」
 悲しいまでに体に染み付いた卑しき者の腰の低さ。
 しかし、そんな農民の彼らにも守るべき意地はあったのだ。
「いたぞ! 奴らだ!」
「出会え出会え! 敵は正面だ!」
 どたどたと足音を立てて、槍を持った家臣たちが右側から迫ってくる。
 敢えて、その道を行こうとした蜩を次郎と弥助が止めた。
「旦那、ここはあっしらに任せてくだせえ」
「坪内様は強いお方です。オラ達が辿り着けても、勝てっこねえ」
「だが、しかしそれではお主らが」
「行ってくだせえ旦那。あっしらでも時間くらいは稼いでみせまさあ」
「へへっ、オラ達臆病だから……先生が見えなくなったら逃げるかもしれねえです」
 彼らの決意は固い。どうやらここを死に場所と決めたようだ。
 そんな男達を前に、決意を無駄にすることは出来るものではない。
 ここで、大勢と斬り合っていては目的を果たすことがかなわない恐れが増すばかりである。
「かたじけない。行くぞ、コム。そなたは向こうに行け」
「蜩のおじちゃんも、気をつけて」
 男たちは散っていった。その行く末は、もはや誰にも分からない。
 もし、この時知っているものがいたとすれば、それは運命というものだけだっただろう。


 城に怒号と悲鳴が轟く。
 いかに武士とはいえ、備えもしていないところを襲われては烏合の集と変わりがなかった。
 蜩という修羅を相手に、前に立ち塞がった者は一人、また一人と斬り倒されていく。
 いや、蜩も前後を槍で囲まれてはどうしようもなかっただろう。
 だが、敵は前からくるばかりで、後ろから襲ってくる敵はいなかったのだ。
 実は彼が知らなかっただけで、坪内の家臣の中にも自害した重蔵のように今回の一件に反感を抱いている者は少なくなかった。
 なんと、入り口で必死の抵抗をする農民の姿に良心の呵責を覚えた三名が、蜩達の側に寝返ったのである。
 城の入り口付近はそれがために混乱状態に陥り、蜩への後方からの追撃は途絶えていたのだ。
 それだけではない。
 寝返らないまでも、戦いに疑問を覚え、何人かは逃げ出してしまった。
 たった四人が行動を見せたことによって、家臣たちの心にあった戸惑いが形となって現れてしまったのだ。
 攻め込んだのは四人にも関わらず、即時粉砕とはいかない事態が展開されていた。
 組織というものに巣くう魔物は、なんとも恐ろしいものである。
 忠を尽くすか、恩に報いるか、人々はその狭間で悩む。
 この場にいるもの、その誰もがそのしがらみから逃れることは出来ない。
 そして、ここにまた、静かに座して瞑想を続ける男がいた。
「た、大将! があっ!?」
 扉を開けた彼の部下の一人が、背中を叩き斬られて絶命する。
 その奥から現れたのは、血に濡れた刀を携える蜩であった。
 既に、その体は返り血で染まっている。
 そんな彼が、座敷の中央に座っている男を見て動きを止めた。
 静かに瞑想をしていた男がゆっくりと目を開ける。
 まるで、誰が来たか初めから分かっていたとでも言うように。
「やはりお主か。蜩殿」
「郷一郎殿……ここにおったのか……」
 言いようのない緊張が二人の間に走る。
 敵か、味方か、中立か? お互いの立場を探りあう。
 一瞬の間を置いて、郷一郎が口を開いた。
「何故、お主はそこまでする? 退魔師のお主が、何故物の怪を守る?」
「某にも分からん。だが……」
「だが?」
「モノミ殿からもらった握り飯は美味かったのだ」
 しばらく無言で向かい合う二人。
 だが、郷一郎は次の瞬間笑い始めた。
「ふ、ははははは。たかが握り飯の恩のためだけに命を張るのか」
「それだけではない。ただ、小さな幸せを願うだけの者達を殺すなど、人として見逃すことは出来ぬ」
「そうか、なるほどな」
 笑うのをやめ、郷一郎が立ち上がる。
 そして、腰に差した刀を抜き、蜩にそれを突きつけた。
「やはり、拙者はお主と戦わねばならぬようだ」
「なっ!?」
「確かに、拙者もモノミ様には恩がある。しかし、御館様にはそれ以上の恩がある。一時の感情に流されて、御館様に刃を向けるなど……人のやることではないな?」
「……お主を殺したくはない。ここは退いてくれ」
「うぬぼれるな! 拙者は武士、日々鍛錬も続けている。退魔師ごときに遅れを取りはせん」
 蜩を一喝して郷一郎が構えを取る。
 何もしなければ、肩からばっさりと袈裟に裂かれるだろう。
 蜩はしぶしぶ稲荷守を構えた。
「どうしても、そなたと戦わねばならぬのだな」
「そうだ。お主が恩に報いるなら、拙者には忠を尽くさねばならぬ義務がある。人としてな」
「……止むを得ん」
 ぎり、と二人の間合が狭まる。
 お互いが相手を必殺の間合に捉えた時、火蓋は切って落とされた。
「いざ尋常に」
「参る!」
 一たび、二たび、三たび、命を刈り取る大鎌が恐ろしい音を立てて空を裂く。
 相手を真っ二つにしかねないほどの剛剣。
 しゃがみ、あるいは跳び、彼らは相手の攻撃をかわした。
「ぬんっ!」
「ぐっ!?」
 強引に郷一郎が前に出て、己の刃を蜩の刃にぶつけた。
 双方、そのまま相手を弾き飛ばそうと刀で押し合う。
 いわゆる、鍔迫り合いの状態だ。
 手を伸ばせば届く位置に互いの顔がある。
 表情も、呼吸も間近に読み取れた。
 力みで顔を歪める蜩に、同じく顔を歪めながらも郷一郎が口元を緩めた。
「なあ、蜩殿。その廊下の先に、小庭がござる」
「それがどうした?」
「このような狭いところより、そちらの方が戦いやすい。場を移さぬか?」
「某は、このままで一向に構わん」
「何、お主にも悪い話ではなかろう。その庭の先は御館様の寝所だ」
「……その誘い、乗ろう」
 郷一郎が下がり、蜩が押す。
 そして郷一郎の後方にあった扉を二人で横になって蹴り飛ばした。
「ゆくぞ!」
「うおおおおっ!」
 刃をぶつけ合ったまま、長い廊下を一気に駆け抜ける二人。
 外の明かりが見えると同時に、相手を強く一押しして相手を弾き飛ばす。
 横っ飛びに跳んだ二人が、玉砂利の敷き詰められた庭に転がり落ちた。


 じゃり、と音を立てて二人の男が起き上がる。
 だが、立ち上がった二人はあることに気付いた。
 玉砂利の地面だけでなく、目の前にも白いものが舞っているではないか。
「……雪か、今年は随分早いな」
「それはモノミ殿の悲しみだ。降るはずの無い雪が降るほどのな」
「ならば拙者を打ち倒し、モノミ様への恩に報いるがよかろう!」
 郷一郎の刀が蜩を襲う。
 対する蜩は、今度は避けずにその刀を叩き返した。
 激しい金属の音が、冷たく乾いた空に響き渡る。
 それはまさに意地と意地のぶつかり合い。
 互いの、人としての尊厳と、男の誇りをかけた一騎打ちであった。
 だが、その一騎打ちにも終わりが来る。
 敗者と勝者を分けるその瞬間が。
 蜩は気付かなかったのだろうか?
 いや、己が振る刀『稲荷守』を信用していたのかもしれない。
 刀というものは、ただ人を斬るだけでも刃毀れしていく。
 ましてや、刀と刀を全力でぶつけ合えばその比ではない。
 技量で勝っていたのは間違いなく蜩であっただろう。
 しかし、戦に慣れていたのは郷一郎だったのだ。
 一瞬、まさに一瞬の出来事だった。
「ふんっ!」
「ぬっ!?」
 打ち合いで、徐々に壁際へと追い詰められようとしていた郷一郎が突然手にした刀を投げたのだ。
 それは恐ろしい勢いで蜩の眼前を通り過ぎ、城の縁側の柱に突き立つ。
 しかし、外れは外れである。
 蜩は追い詰められた郷一郎の苦肉の策であると思っただろう。
 だが、郷一郎の狙いはそうではなかった。
 すぐさま腰に差した予備の刀を抜き、大上段に斬りかかった。
 僅かな気の緩みからその攻撃を許し、稲荷守で受けに回ったのが蜩の命取りとなる。
「ぐっ!?」
 脆くなった稲荷守は、その全力のこもった一撃に耐えられず、真ん中からへし折られたのだ。
 郷一郎の刀は、蜩の肩に食い込んで止まっている。
 ほとばしる鮮血が玉砂利を朱に染め、蜩は堪らず片膝をついた。
 蜩が持っていたのは稲荷守一本だけ。
 それが折られては、もはや蜩に戦う術はない。
 だが、激痛に顔を歪めて地面に跪く蜩を前に、郷一郎も動かない。
 いや、動けないのだ。
 相手は既に無力化している。
 気心を通わせた仲であり、恩のあるモノミと関係の深い相手にトドメを刺す事は彼にも躊躇われたのだ。
 それを察したのか、荒い息で蜩が顔を上げる。
 その顔は、痛みに耐えながらも、何故か笑っていた。
「郷一郎殿……悲しいな。やはり……某に人斬りは無理……だったようだ……」
「……蜩殿」
「郷一郎殿、某を斬ってくれ。これ以上……無用な抵抗をしてお主達を傷つけたくは……ない」
「待て、密かにお主を裏から連れ出せば……」
「某は既に十二人斬った。もう……これ以上の心遣いはいらぬ……。それに、それはできぬ……」
 蜩がそう言うと同時に、二人が先ほど飛び出した廊下の方から大勢の足音が聞こえてくる。
 程なくして、体を返り血に染めた六人の家臣が庭に降り立った。
「郷一郎様、城に入った賊二人と賊に寝返った者三人を討ち取りました」
「それと、一匹を捕らえましたが、いかがいたしましょう?」
 家臣の一人が、血に染まって気を失っている子狐を郷一郎の前へと投げ捨てる。
 それは紛れも無くコムだった。
 その様子を見て、蜩は自嘲するかのように郷一郎に笑いかける。
「こういうことだ。さあ、某を斬れ」
 選択の余地はなかった。
 ここで蜩を斬らねば、今度は郷一郎が寝返ったと疑われる。
 郷一郎は静かに刀を構えた。
「……かたじけない」
 その言葉は、何に対してのものだったのだろう?
 嬲らず、一撃で全てを終えようとする郷一郎への感謝か?
 それとも、鬼坪の寝所前まで案内することで、恩と忠義の両方に応えようとした彼の不器用な心遣いに対してか?
 おそらく、それら全てに対してであろう。
 静かに降る雪が、白い玉砂利に付いた血を隠し、洗い流していく。
 何もかも、真っ白に埋め尽くすように。
 その光景に何か思うところがあったのだろうか。
 蜩は笑みを浮かべて目を閉じた。
「御免!」


 蜩――享年推定三十二歳。
 その死に顔は、悲しみの中にも、どこか穏やかさを感じるものだった。


 何故こんなことになったのだろう?
 ただ、みんな自由に生きることを望んだだけだった。
「この木の下でいいだろうか?」
「はい。郷一郎殿とか言われましたな。ありがとうございます、蜩殿を……ひぐ……」
「ミワナ殿無理をする必要はござらぬ。拙者は怨まれて当然のことをした。早々にここを立ち去ろう」
 誰もが幸せを望んだ。
 でも、そこに大小の違いがあった。
 それがいけなかったのだろうか?
「その、コムの命を助けて下さったことには何とお礼を申してよいのか」
「子供を斬るなど鬼畜生の所業でござる。だが、次はない。お主らも早くここから逃げることだ」
 人の前に姿を晒した神が悪かったのだろうか。
 家臣や領民を豊かにするために、戦をしようとした領主が悪いのだろうか。
 少女の恩に報いるために戦った男がいた。
 しかし、男は家族や人生があるであろう者を十二人も殺害した。
 城に入り込んだ賊を、主君への忠義を尽くして討ち取った男がいる。
 だが、その主君が死んでいれば、何もかも丸く収まったかもしれない。
「ううっ、ソレガシさん! 何でそんな姿になっちゃったんだよ! 次郎さんも、弥助さんも……」
「モノミ様、落ち着いて下され!」
「拙者は城に戻る。邪魔をした」
 一体、誰が正しくて、誰が間違っていたのだろう。
 何が良くて、何が悪いのだろう。
 答えは出ない。
 誰かの生き方に価値をつけることなど、誰にも出来るものではない。
 だが、怒りはもたらされる。
 理不尽という現実に対するやり場の無い怒りが。
 その怒りは、怒るべきではない、怒ってはならない者にまでもたらされてしまった。
 怒りに満ちた神の体から、赤黒い炎が立ちのぼる。
「ゆ……るさ……ない……」
「モノミ様?」
「返して……アタシの大切だったものを……」
「モノミ様!? お止めください、何をなさる気ですか!?」
「許さない!」


 ―――風が、啼いた。


 人々は恐れおののいた。
 突如空に飛び出した赤黒い巨大な火の玉が、坪内鬼六の城を焼き尽くすその光景に。
 土地神モノミの力は『創造』、すなわち命を育む力だった。
 だが、それが『破壊』に転じると、恐るべき厄災へと姿を変えるなどと誰が想像しただろうか。
 坪内鬼六の城があったはずの丘は、三日三晩燃え続け……後には何もない焦土だけが広がっていた。
 城主の鬼坪も、その身を憤怒の炎へと変えたモノミの姿もそこにはない。
 全てが灰となって、空に溶けて消えてしまった。
 破壊の力で蹂躙され汚染し尽くされた丘の焦土は、瘴気(毒気のこと)を噴き上げ、人、草木、雪までも拒んだ。
 神の怒りが形を持って留まり続けるその地を、人々は『不浄の地モノミの丘』と呼んで恐れた。
 だが、一方で、丘から噴き出る瘴気の霧は村を包み、外から村の存在を包み隠した。
 それはモノミの意図だったのか、ただの偶然だったのかは分からない。
 ただ、村は戦のある世界から隔絶されたのは確かであった。
 その中に残された人間と狐達は、再び歩み寄って暮らすようになる。
 そしてその生活の過程で、妖狐達の中に人間と結ばれ、子を為すものが現れた。
 妖狐と妖狐が子を為しても、妖狐が生まれることはない。
 妖狐とは土地神の力があって生まれるものだからだ。
 しかし、人と狐の交わりはそこに奇跡をもたらした。
 人と狐の間に生まれた子供には、同じ仲間を生む能力が備わっていたのだ。
 それを知った妖狐達は、進んで人と結ばれて行った。
 子供を生み育てる、それはただの狐を生むことでは得られない嬉しさがあったのだろう。
 モノミを失ったことで、滅びを待つより無くなった種族が見出した光。
 狐達にとって、人との交わりはそういうものだった。
 やがて、いつしか純血の妖狐はいなくなり、戦の世も過ぎたころ。
 モノミの怒りもようやく薄れ始めたのか、村を覆っていた瘴気の霧は晴れていった。
 そのころ村では、人の姿で生まれたものは村で、狐の姿で生まれたものは山で生きるという決まりが出来ていた。
 というのも、混血によって狐の血が薄れ行く中で、人の姿になるのに支障を来たす者、そもそも人の姿になれない者が現れたからだ。
 外界との交流が開かれたことにより、人は人の中へ、狐は山の中へ、それぞれあるべき場所へと帰っていった。






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