こうなった根本の原因はなんだったのか?
 そう、父さんの電話だった。
 もう一度基本に立ち返ってみよう。
 父さんに説明を求めるのだ。
 ということでレッツテレフォン!

「あー、オレオレ」
「誰よ?」
「なんだ母さんか。まあ母さんでもいいや。俺の妹についてなんだけど……」
「妹は大事にしなさい。それじゃ、忙しいから」

 ……即切られた。
 このやろう、俺は真面目なんだ。
 それをはっきりと分からせてやる。
 もう一度だ。

「あー、オレオレ」
「うるさいわよ!」

 最速記録更新。おめでとうございます。
 はっ……いかん。あまりに鮮やかな切りっぷりに感動してしまった。
 くそ、こうなりゃ意地だ。今度こそ分からせてやる。
 国際電話につないでっと……。

「あー、オレ……」
「ちっ」

 ……記録が更に更新された。
 意地でも話す気はないらしい。
 どうやら俺に拒否権はないようだ。
 くそぉ、何考えてるんだよ俺の親は……。

 しかし、よくよく考えると一番意味不明なのは栞の方だった。
 世界って不思議に満ちてるなあ……あはははは……。





いもーと?

6.主クレオパトゥラと朕コブラ





『朝〜、朝だよ〜』
 ……もう朝か。
『朝ご飯食べて学校行くよ〜』
 布団を跳ね除け、目覚ましにチョップ。
 うむ。静かになった。
「って、今日は日曜じゃん」
 なんで目覚ましなんかかけてるんだ、馬鹿か俺は。
 いや、これでも受験生なんだ。
 これからは日曜日もちゃんと起きないとな。
 でも、それは来週からにして今日は惰眠を貪るべし。
 先週は妹が出来たり、妹が出来たり、妹が出来たりで疲れたからな。
 おやすみぃ……。

 ぐぅ。

 しかし、そうは問屋が降ろさなかった。
「腹減ったぞ」
 なまじ普段通りに起きてしまったものだから、腹が減ってしまって眠れない。
 仕方ない。起きるか。
 秋子さんならいつも通り起きてるだろうし。
「……ん?」
 朝食に向かおうとベットを降りると、ドアの前に妙なものを見つけた。
 何だこの白いシーツは?
 随分でかいが何の荷物だろう?
 よく見ると、傍に紙切れが落ちていた。
 『祐一さんへ。起きたら開いてください』と柔らかい筆跡で書かれている。
 秋子さんが寝ている間に置いていったのだろうか?
 とりあえず、片付けていくか。ドアの前じゃ邪魔だし。
「よっと……結構重いな」
 ずりずりとシーツを部屋の真ん中へと引っぱり寄せる。
 何が入ってるんだろうか?
 なんていうか、引っ張った感じは『ごろん』って感じの質感だ。
 タンスとかそんな硬いものじゃない。
 ソファか座布団? にしては随分横に長いし、重い気もする。
 まあいいか。開けてみれば。
 そう思って、ぴらっとシーツの裾をめくってみた。
 ぼてっ、と床に何かが落ちる音。
 ごとっ、とかそんな無機質な音じゃない。
 ゴムのような弾性のある物が転がる音。
 薄い肌色の細長い何か。薄い肌色の棒状の何か。
「なっ!? なななっ!?」
 シーツから飛び出したそれは、まさしく人間の足だった。
 ちょっと待て、こりゃどういうことだ!?
 し、ししし、死体!?
 ちょっと待て、俺は殺ってないぞ。
 いやいやいや、落ち着け俺。死体と決まったわけじゃないだろう。
 しかし、あのころんと投げ出された足……シーツから見えているのは膝付近からだが、あの先はどうなってる?
 全部開いてみたら、バラバラになった人間の一式がべろんちょなんて展開が待ってるかもしれない。
 あの血の気の薄い足が余計に不安を誘う。

『祐一さん。少しの間リアルなプラモデルで楽しんでください。(秋子より)』

 そういうことなのか!?
 秋子さん、いくらなんでも朝からそれはヘヴィすぎますって。
 いやいやいや、やっぱり落ち着け俺。
 妄想だけで朝からスプラッター映像を頭に流してしまうところだった。
 あの足をよく見るんだ。バラバラ殺人ならシーツが赤く染まってるだろう。

『あ、汚れないように血抜きは済ませておきました。(秋子より)』

 やりかねん。秋子さんならそれくらいの用意周到さはある。
 ……って、待てや俺。いつから秋子さんは猟奇殺人犯になった。
 まずは触ってみよう。うん。
 よく出来たマネキンかもしれないし、死体なら冷たいはずだ。
 そーっとそーっと近づいて、シーツからはみ出た薄い肌色の足に触れてみる。

 ぷに。

 ふむ……熱はあるようだ。
 となると、これはマネキンでもなく生きた人間ということになる。
 そうだとして、何でこんなものを秋子さんが……?

『今朝の朝食ですよ。(秋子より)』

 なんと恐ろしい。やはり水瀬家は食人一家だったのか。
 いや、待てって俺。空腹で変な妄想に至っちゃイカン。
 平常心だ平常心。
 どうせ栞の悪戯だろう。よく見たらこの薄い肌の色って栞じゃん。
 まったく、驚かせやがる。
 さっさと引っ張り出して叱ってやろう。
 そう思い、シーツをがばっとめくり上げる。
 足が両足ともごろりとシーツから転がり落ち、付け根あるたてすじもくっきりと浮かび上がった。
 ほら見ろ、この足はやっぱり栞だ。

 ……ん?

 何か、おかしいような……?
 シーツから飛び出したのは両足とその付け根まで。
 付け根にはぷっくりとした、なだらかな双丘がある。
 別におかしいところなんて……えっ?

 それは男の本能というやつだろうか?
 理解よりも先に俺の体はドクンと大きく脈打った。

「ななななっ!? 裸ぁ!?」

 この感じたこともない血の滾り。
 俺の中の男がそれが真実だと告げる。
 そう、目の前のぷっくりとしたY字に見えるたてすじこそは、まさしくおんにゃのこの証。
 幼い頃、名雪の体についてたあの不思議な三角コーナー。
 その頃は気にも止めなかったのに、今は夢にまで見る秘境。
 それが今目の前に、それも触れられる距離にある。

 ふにふに。

 ていうか触った。
 やべえ、何この股間のすべすべぷにぷに感。
 しかも顔を近づけたら、石鹸のいい匂いまでしてくるし。
 朝勃ちがおさまらないぞ、おい。
 かくなる上は、この小さな双丘の内部にも侵入を!

「ふぁぁぁぁ……」
「はうっ!?」

 びくっと体が震える。
 反射的にあくびの聞こえた方向に顔を向けた。
「あ、おはようございます。お兄ちゃん」
 そこには顔をあげてこっちをにこにこと見ている栞がいた。
 ぎゃああああ、見られてるし。
 しかもそこで『お兄ちゃん』強調なのか?
 妹の股間をぷにぷにふにふにしてるしてる最中に。
 ああ、なんかもの凄く禁忌な罪悪感が……。

「お楽しみですし、もうちょっと寝てましょうか?」

 にこー。
 ああっ、ヤメテ。そんな目で見ないで。
 禁忌な罪悪感で朝勃ちが陥没になってしまう。
 俺の股間にずきゅきゅんだ。

 って、違うだろ俺。
「何で裸で俺の部屋にいる?」
 そう、問題はこれだ。
 裸で人の部屋にいるやつが悪い。
「裸はダメなんですか?」
「ダメに決まってるだろう。女の子だろうが」
「でも、兄妹ですし、見られて困るものもついてませんし」
「うわっ、足広げるなっ!」
 これみよがしに、つるつるりんのぷにぷにな足の付け根を広げてみせる栞。
 確かについてない、というか本当に何もない。
 イチモツはもちろんのこと、毛すらも。
「そ、それでも裸は色々不便だろ」
「お兄ちゃんみたいにぶつけて困るモノはついてませんし、生理もまだですから別に不便じゃないです」
「胸とか」
「小ぶりですし、まだ垂れるような年でもないです」
「あー、うーん……」
「他に何か困ることはあります?」
「……ない気がする」
 栞が家族の間で全裸でいることを否定する理由はどこにもなくなった。
 というより、全裸があまりに自然すぎて何も言えない。
 何より見苦しい『無駄毛』というものがまるでない。
 つるつるてんだ。
 これを否定するのは、赤ん坊に『裸で生まれてくるな馬鹿者』と説教するようなものだろう。


 立ち上がって、露になった全身を上から下までもう一度見下ろしてみる。
 くっきりくびれた腰のライン、小さいながらもふくらみを帯びた胸、足の付け根にあるぷっくりとした双丘。
 まさしく、女性でも、ましてや老婆でもない『女の子』がそこにいた。
 うむ、良し。全部、良し。
 女の子は何も着てないのが一番だ、というのは一つの宇宙的真理だと悟った。
 って、そうじゃなくて……。
「綺麗なのは分かったが、何でそんな格好で俺の部屋にいる必要がある?」
「分かりませんか?」
「まったくもって理解できない」
 裸を見せたいなんて趣味があるとか言われても困る。
 そんなのは痴女という立派な変態だ。
 俺に変態の知り合いはいらない……。

 ぷにぷに。

「あんっ、お兄ちゃんたら」
「はうっ!?」
 考えとは裏腹に、俺の手は栞のぷっくりとしたあの秘境をプッシュしていた。
 ぷにぷに、ぷにぷに、と。
 たまらない、この感触。産毛の柔らかな触感が更なる興奮を。
 陰毛では到底味わえないさらさら感。
 ち、痴女でもいいかも!
「あ、またおっきくなりましたね」
「へ……?」
 栞がにっこりと笑って俺のある場所に視線を向ける。
 というか、股間。
 マイサン(英語で私のムスコ)はこれでもかというくらいに、その存在を誇示していた。
 あ、ヤバい。絶対これ出てる。先走りが。
「いや、そのこれはっ!」
 慌てて股間を両手で覆う。
 は、恥ずかしい。
 女の子に勃起を見られるのがこんなに恥ずかしいなんて。
 栞の言う通りだ。
 見られて困るものがついてるのは、むしろ男の方だよ。
 おお神よ、人間の神よ。
 なぜ、あなたは男に、こんな情けない性欲センサー取り付けたのか?
 くそう、収まれ我がムスコ。南無阿弥陀仏、南妙法蓮華教……。
「良かったです。お兄ちゃんが普通の男の子で」
「は?」
 だが、栞はその情けない醜態を晒している我がムスコを愛おしげに見つめていた。
 それこそ安堵の表情で。
「もうっ、心配したんですよ」
 そうかと思ったら、こんどは頬を膨らませてぷりぷりと怒り始めた。
 そして、くるまっていたシーツをまといつつ立ち上がって、ベッドの下に手を突っ込みバンバンと床を叩く。
「何なんですか、この部屋は。年頃の男の子がえっちな本一冊も隠してないなんて不健全ですっ!」
「ええーーっ!?」
 普通逆だろ、おい。
 隠したエロ本を女の子が見つけて『不潔です!』って怒るもんじゃないのか?
 ていうか、いつの前にそんなこと調査したんだ栞。
「妹としては心配になったんですよ。お兄ちゃんは不能なんじゃないかって」
「名雪や秋子さんがいるのに、居候の身でそんな大胆な真似する勇気はないって」
「そんな程度で挫けるほどお兄ちゃんのパトスは弱いんですかっ。今の年からそんなんじゃ、性機能に問題があるんじゃないかって心配です!」
 余計なお世話だ。
 エロ本くらい学校やコンビニで見とるわ。
「まあ、そんなわけで、体を張ってお兄ちゃんのオカズになろうという妹心なのですよ」
「ほう」
「さあ、どうぞ!」
 そう言って、床に転がり再び『女の子』の裸体を惜しげもなく広げる栞。
 エロ本やビデオとは比べ物にならない、360度立体の世界がそこにある。
 何度エロ本を角度を変えて見ただろうか?
 そんなことをしても無意味だと分かっているのに、止められないのは男のサガか。
 しかし、目の前の『女の子』は写真でも映像でもない、まさに生身。
 触れて楽しむことも出来れば、好きな角度で眺めることも出来る。
 すらっとつるっとぷにっとした肉付き、雪のように白い肌がなんともそそる。
 あ、ヤバイ。精子が噴き出してき……。
「って、アホか! 出てけ!」
「わっ!? 何するんですか!?」
 シーツを引き抜き、栞の体をドアに向かって転がす。
 どっからどう見ても、すっぽんぽんの体がごろごろと床を転がった。
 お尻、腰、うなじ、胸、フトモモ、脇、ぷにっとした足の付け根。
 それら全てが一気に二回再生で網膜に叩き込まれる。
 うおっ! む、ムスコがただならぬ脈打ちを……。
「い、いいか、栞! 俺は妹に手を出すような鬼畜じゃない」
「股間に手を当てながら、内股で啖呵切っても説得力ないですよ」
「いいから出てけ!」
 扉を開け、シーツを投げつけ、そのまま廊下へ栞を強制排出。
 ああ、やばい、ティッシュティッシュ……。
「もうっ、お兄ちゃんたら照れ屋さんですねー」
「やかましいっ! さっさと部屋戻って服着ろ! あっ……」
 一瞬の集中を切らした瞬間に、ムスコは俺の管制下を離れてしまった。
 ああ、パンツが、パンツが……。
 快感と後悔がパンツに染みを、ズボンに湿りを広げていく。
 もう止められない。もう止まらない。
 ああ、なんて気持ちいいんだろう……。
「お兄ちゃーん、パンツの洗濯は任せてくださいねー」
 ドアの向こうからは、嬉々とした妹の声が聞こえる。
 負けた。何かに負けた。
 魂的に完全に屈してしまった。
 今俺は起きているのだろうか?
 それともこれは淫夢の続きなのか?
 悔しさと情けなさが、パンツの湿りと共に脳内を駆け巡る。


 なのに……。
 そうだというのに……。
 あのつるつるぷにぷにっとした双丘が、こんなにも忘れられない。
 栞ってパイパンだったんだなあ。
 なんて思った瞬間、パンツの染みが更に広がった。
 ああ、これは現実だ。現実の朝なんだ。
 窓からは、ぽかぽかと呑気な陽光が俺を照らしていた。



 ――朝食後。
 ぺったらぺったら、と肉感の良さ気なフローリングの廊下にこだまする。
 健康的な素足が奏でるハーモニー。
 するりするりと布が擦れる音は、奥ゆかしさみたいな何かがあるかもしれない。
「今日もおいしかったですねー」
「ああ」
「私のお母さんなんて、朝ごはんは『何か入れればいいもんでしょ』って結構無頓着なんですよ」
「俺のところも似たようなもんだ。ひどい時なんか、コーンフレークの箱投げてよこしてそれっきりだぞ」
「渡してもらえるだけいいじゃないですか。私のところはセルフですよ、セルフ」

 ぺったらぺったら、するりするり。

「なあ、栞……」
「何ですか、お兄ちゃん?」

 ぺったらぺったら、するりするり。

「いつまでそんなカッコしてるんだ! 下着くらいはけっ!」
「いいじゃないですか。隠すべきところは隠してるんですし」
「そういう問題じゃないっ!」
 そう、俺の後ろをついてくる栞の格好は――。
 生まれたままの姿にシーツ一枚という、朝の格好のままだった。
「昔の人はこんな服装でしたよ。古代ローマとか」
「ここは現代日本だ」
「もう、お兄ちゃんは風情ってものがないですね。しわくちゃパジャマで朝ごはんを食べるのと、オリエンタルな服装で楽しむブレックファーストと、どっちが優雅な一時か考えてください」
「……布団のシーツでオリエンタルを語るか?」
 どう見ても子供のお化けごっこだぞ。
 何で秋子さんも何も言わないんだ……?
「む〜。想像力を働かせれば、布団のシーツも最高級シルクです」
「そうか。だったら、想像力を働かせればパジャマもおしゃれスーツだな。ということで服を着ろ」
「嫌です。こっちの方が風通しよくて気持ちいいですし」
 こ、こら、足を出すな。
 うぐぅ、やばいよこの格好。
 足とか手とか、素肌がのぞく度に……。
 ノーパンであることを、あの美しき秘境が一枚引っぺがした先にあることを意識してしまう。
 着物にしてもノーパンであるか、はいているか、これは大きな違いだ……と思う。
 ああ神様、なんで女の子の股間にあのようなロマン溢れる造詣を施したのですか?
 ただのつるつるのっぺらりんなら、ここまでの興奮は考えられないのに。
「あ、お兄ちゃん。お願いがあるんです」
「ああ。俺もある。いいから服を着てくれ」
「そんなつまらないことじゃないんですよ。私達にとって、とっても重要なことなんです」
 ……俺の言ってることってつまらないことなんだろうか?
 ちょっと考えてみよう。
 常識的に考えて、女の子がこんな格好をして廊下を歩いているのは好ましくない。
 しかし、目の前の女の子は彼女であり、妹でもある。
 気兼ねするような関係ではない。
 むしろ見たくないと主張することは、『お前の裸に興味はない』ということで、眼前の少女の性的魅力の全否定に繋がる。
 恥じらいと、プライドに比して、俺が少女に取るべき行動は何だろうか?
 本人が見られて構わないと言っている以上、それを抑圧することは否定の方が勝るということになり、プライドをいたく傷つけることになりかねない。
 そんなことになったら、二度と少女は人前で裸になることなど出来ないだろう。
 ……結論がなんだかおかしい気もするが、とにかく『服を着ろ』ということはつまらないことなのかもしれない。

「お兄ちゃん!」
「ん? ああ、悪い。ちょっと考え事をしていた。で、お願いってなんだ?」

 改めてそう訊ねると、栞は体をごそごそと震わせて、シーツのすき間から一枚の紙を差し出した。
「この紙にサインして欲しいんです」
「……今、どこからその紙出した?」
 朝、開いて見せたときはそんなものなかった。
 というか、裸だったし!
「もう、何言ってるんですか。ポケットからに決まってるじゃないですか?」
「……お前、その下に何も着てないだろ」
 裸なのにポケットなんかあるはずがない。
 それに、なんかこの手渡された紙生暖かいんだけど……。
「いやですね。女の子に何を言わせるんですか、お兄ちゃんは」
 ぽっと頬を朱に染めながら、体をくねくね。
 なんとなく予想がついた。
 いや、そうかどうかは分からないけど。
 シーツにしかけして隠し持ってただけかもしれないし。
 そんなトコに収納してたら、紙がボロボロになってるはずだし!
 でも……。
 たしか、紙取り出す時『んっ』とか色っぽい声出して体震わせてたよな。


 ……気にすまい。気にしたら負けだ。
 とにかく、何が書いてあるのか確認しなくては。
 どれどれ、っと。
「『妹認定書。この者を相沢家の妹として、両家の合意の下承認する』……って、何だこれ?」
 どこかの公的機関の証明書らしい。
 そこには栞の名前と、美坂家・相沢家の両親の名前が書き込まれていた。
「義妹ってなかなか難しいものなんですよ。家族感情を考慮とかで、両家……特に受け入れ先の家族全員の承認が必要なんです」
「へえ、事務的なものかと思ったら、国も結構人情味あるんだな」
「それでですね、私が正式な妹になるにはお兄ちゃんの許可が必要なんです。ここにサインしてもらえませんか?」
「ふむ……」
 見ると、確かに書類には『兄弟姉妹の承認者』という欄が『新たに兄弟姉妹になる者:美坂栞』の隣で空欄になっていた。
 しかし、一番最初に兄弟姉妹の承認サインを求めるとは……。
「なんだか、随分兄弟姉妹の扱いが大きくないか?」
「新しい家族が増える事で一番戸惑うのは、やっぱり子供です。だから、新しい家族を迎える兄弟姉妹の承認が一番重要と考えられてるそうですよ」
「なるほど」
 今までお役所仕事なんて言ったら、冷血で人情味の欠片もないようなものにしか思っていなかった。
 やるなあ、国。それと政治家の先生。
 って、待てよ……ということは、つまり。
「なあ、栞。これって俺がサインしなかったらどうなるんだ?」
 突如湧いて出た邪悪な考えを、目の前のオリエンタル少女に叩きつける。
 その瞬間、栞はびくっと体を震わせた。
 ふっふっふ、小次郎敗れたり! 貴様の弱点は見切った!
「ど、どうって、そんなこと……」
「残念だったな、栞。悪ふざけの時間はこれで終わりだ。なんたって、最終決定権は俺が握ってるんだからな。さあ、家に帰れ」
「うっ、ううっ……」
 がくっと力なく崩れ落ちる栞。
 思わぬところから事態解決の鍵が降ってきた。
 多分、俺の日頃の行いがいいからだろう。うん、きっとそうだ。
 とにかく、これで俺達は今まで通りの生活に戻る。
 一件落着だ。
「分かりました……美坂のおうちに帰ります」
「ああ、またあした学校で」
「……はい」
 寂しそうな顔に心が痛むが、仕方ない。
 相手は美坂さんちの妹さんなのだ。
 俺の妹にしていいわけがない。
 なにより、恋人が妹になってしまったら付き合いにくいじゃないか。ねえ?
 しかし……。
 そう思いつつ、手渡された妹認定書なる紙を見つめてみる。
 一箇所だけぽっかりと空いた、俺の名前を書き込む欄。
 まさに妹を手にするも、手放すも全て俺の意思次第というわけだ。
 俺がこいつに名前を書き込むだけで、目の前でしょんぼりしてる少女をモノにすることが出来るというわけか。
 くっくっく。そう考えてみるとかわいいやつよのう。
 この紙を握って見下ろしているだけで、男としての支配欲が満たされていくようだ。

「きゃっ!?」
「ん? うおっ!?」

 突然、部屋に身を翻そうとした栞が裾を踏んづけたのか、それとも手の力が抜けて緩んだのか、そのどちらかはわからないが、栞の体を包んでいたシーツがするりと床に落ちた。
 となると、当然俺の目の前にいるのは……一糸纏わぬ姿の栞……。
「わ、わわわっ!? 見ないで下さいっ!」
 ばばばっ、と慌てて栞が胸と股間に手を回す。
 が、小さい栞の手だ。
 色々はみ出したままである。そう、いろいろと。
 さらに、見えないように体を心持ち横に向けているが……アングル的に胸とか足の付け根の三角コーナーがぷっくりしてるところとかが正面より余計に強調されてたりして……。
「み、見るなと言われても、さっきは自分から見せてたじゃないか」
 変態を見るような目つきで、こっちを睨みつける少女に思わずたじろぐ。
 良識ある男って、こういうシチュエーションに弱いよな……絶対。
「さ、さっきのは見せるつもりだったからいいんです。心の準備が出来てないのに見られたら恥ずかしいです」
 これ、さっき自分から裸見せてた少女と同一人物なんだろうか?
 必死に隠してみても、実はすき間から覗くつるつる。
 指の食い込みが見せるぷにぷに。
 それを目の前の少女が、顔を真っ赤にしながら守ろうとしている。
 くっ、なんという扇情美!
 妹がいる風景では、こんなのも日常になるのだろうか?
 それも、このつるつるぷにぷにだぞ。
 栞が床に落ちた布を拾おうとしたせいで、三角コーナーのぷっくりがまた覗いた。
 ほ、欲しい。
 こんな光景を目にしても咎められることのないもの。
 それこそが妹。
 従兄妹とはまるで違う、『妹』という名の美酒。
 まだまだ味わい足りない。いや、栓すら開けていない。
 いいのか? 手放して?
 手にする権利は今まさに俺が握ったこの紙に……!
「栞、ちょっとそこで待ってろ」
「え、ええっ!? このままでですか!? お兄ちゃん、悪趣味ですっ!」
 見ると栞はシーツを引っぱり上げ……かろうじて足の付け根の一本線を隠している状況で止まっていた。
 う、うおう。隠しかけってのもクるものがあるな。
「い、いや。そっちは止めないでいい。というか、服着ないならせめてそいつをちゃんとかぶれ」
「あ、はい。それじゃ……」
 すすすっとシーツを上に持ち上げていく。
 纏おうとして、胸を覆っていた右手を腰に回した瞬間、今度は片乳がいっしゅんぷるんと存在をアピールした。
 うーむ、小さいことは小さいが、その分張りには優れてるんだな。
「と、とにかく、そこで待ってろよ」
 そう言い残して部屋へ脱兎。
 ペン立てから取り出したボールペンを、手にした紙の空欄に当てる。
 俺はそこに……。
「どぉりゃああああっ!」
 気合を込めて『相沢祐一』とサインした。
 全ては妹をこの手にするために!






 だが、祐一は気付いていなかった。
 『妹認定書』を受け取って自室に戻った栞が、にこーとほくそ笑みながらぺラリと紙をひっぺがしたのを。
「ふっふっふ、祐一さんも鈍いですねー。女の子がただで脱ぐわけないじゃないですか」
 引っぺがされた『妹認定書』の下から出てきたものは、『婚姻届』と書かれた正真正銘の公的機関から配布される書類だった。
 そこにもきっちり祐一の名前と栞の名前が書き込まれている。それも隣同士で。
 カーボン紙という、とある特殊な紙があるのをご存知だろうか?
 紙の裏にインクが仕込まれていて、上から文字を書くと下の紙に同じ文字が複写されるというものだ。
 もちろん、書いた本人の筆跡そのままに。
 そう、『妹認定書』はカーボン紙で作られた真っ赤なニセモノで、その下にある『婚姻届』が本命だったのだ。
「さて、後はこれを祐一さんのご両親に送ればミッションコンプリートですね。ある時は彼女、またある時は妹、しかしその実体は若奥さんの相沢栞。うーん、我ながら渋いですっ」
 しかも両親までグル。
 『彼女』『義妹』『許婚』、これらの属性は三位一体で両立しうるものらしい。



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【後書】
 いいように踊らされたコブラ……ほど立派なモノ持ってるかは別として、朕コブラこと祐一。
 でも、大丈夫です。
 クレオパトラがその命を捧げたのも、コブラですから。

 と、うまいこと言ってみたつもりで脱兎。


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