いくつもの星が空に輝き、太陽の光を受けた月が町を照らす。
 そんなある日の深夜、突如黄色い光が空を切り裂いた。
 飛翔する光は町の上空にまで来ると、ぐるぐると回り始め、しばらくして停止した。
「おっかしいなぁ。どこ行っちゃったんだろう。でもまだそう遠くには行ってないはず。ならこの辺りにいるはずだよね、よし頑張ろうっ」
 静かな夜に少女の声だけを残し、光は町の中へと消えていった。




ルミノ・ファンタズム
第四話 新たなる仲間




「じゃあ汐ちゃん、またねー」
「ばいばーい」
 十字路で分かれた凪と真央と手を振りあい、我が家に向かって歩き出す汐。いつもの下校風景だ。
 三人とも途中までは同じ道なのだが、汐の家だけやや離れているため、途中で二人とは別れることになる。
 必ず一人で帰ることになるこの時間を汐は寂しく感じていたが、ミンクが一緒にいるようになってからは嫌と感じなくなっていた。
 特に今日は金曜日、明日は学校が休み。更には日曜に遊ぶ約束をとりつけたところである。
 普段日曜は両親や祖父母と時間を過ごす時間である。だから普段は平日帰宅後もう一度集まって遊ぶのが定例パターン。
 しかし今回はその日曜に、しかも古河家で遊ぶ予定なのである。
 更に追記すると、岡崎夫妻も同席する予定である。それは何故かというと、三人は家族ぐるみで付き合いをしているからだ。
 つまり、凪の保護者と、真央の保護者もやってくる予定なのである。
 そもそも幼稚園からの付き合いである三人は、親同士の仲もすこぶる良いのだ。それで、今の年齢になっても時たま家族ぐるみで集まることがあるというわけなのである。
『嬉しそうですね、汐』
『うんっ。だって久しぶりなんだもん』
 汐の足取りは軽く、念話の中でも思わず返事も弾む。
『私のことは気になさらず、楽しんでくださいね』
『ミンクも一緒に遊べれば良いんだけど……』
『汐の中で眺めているだけでも十分楽しいので、本当に気にしないでください』
 普段からミンクの相手をできる時間は限られている。しかも、その半分は魔法の練習の時間に割かれていた。
 そのことを心苦しく思う汐が何とかならないものかと考えていると、ふと思い当たることがあった。
『ねぇ、ミンクの友達ってどんな人?』
『友達……? ああ、他の式たちですか。なるほど……友達、ですか。そういう言い方もあるかもしれませんね』
『その人たちが一緒にいれば、ミンクも寂しくないよね』
『……そうですね。今頃、どこでどうしてるんでしょう』
 寂しげなその言葉に、光を集めるのも大事だけど、ミンクの友達も早く見つかって欲しい。そう強く思う汐であった。


 で、当日の昼前。古河家前にある公園。
 真央がバットを構え、なぜかピッチャーマウンドには朋也が立っていた。ちなみにキャッチャーはいない。本来キャッチャーをやるべきである朋也が投手だからである。
 朋也は腕を大きく振り上げ、渾身の力を込めて投球する。
「くらえ、必殺剛速球ボール!!」
「ひゃぁぁっ! 小学生相手にそれは酷すぎますううう!」
 秋生譲りの豪腕が唸り、なかなかの運動エネルギーのこもったボールが真央の眼前を通過し、茂みに突っ込む。
 そして凪が球の行く先をきちんと見届けると、とてててと飛んだ先へと走っていった。気の利く少女である。
「朋也くんっ」
 さすがに見かねたのか、渚が慌てて朋也の元へ駆け寄ってきた。さしもの朋也もぎくっと体をすくませる。
「速球とボールじゃ、意味がかぶってますっ」
「そこかよ」
 思わず突っ込む朋也。
「じゃなくて! 真央ちゃんがかわいそうです。大人気ないですっ」
 渚がきっと見据えて朋也をしかる。頭をかきつつそっぽを向く朋也の姿はとてもじゃないが大人には見えなかった。
 古河一族に連なってしまった者は皆子供になってしまう運命でもあるのだろうか、謎である。
 そこにその末端である汐がやってきて、常々思っていた疑問を投げかけた。
「なんでパパは真央ちゃんにいつもひどいことするの?」
 そう、いつもそうなのだ。
 岡崎一家が子供三人と混ざる時、朋也は必ず一度は真央『で』遊ぶ。
 大分昔から付き合いがあるが、初対面の次あたりから既に出来上がっていた恒例行事である。
「うーむ、何故だか分からないんだが」
 神妙な顔で朋也が唸る。
 ついに長年の謎が解き明かされると、少女らが必死の瞳で見つめていた。いつの間にか帰還していた凪もじっと見ている。
「こいつで遊ばないといけない。そんな使命のようなものを感じたと言っていい。そして、何故だかそうしていると非常に落ち着く自分がいるんだ」
「そ、そんな理由で、いたいけな小学生を虐待しないで下さいよぅ」
 緊張感が一気に吹っ飛び、真央が汐たち相手では絶対出さないような声で抗議する。
 年相応の彼女に似合ってるものだったが、聞きなれない声色に汐と凪は若干違和感があった。
「朋也くん…」
 悲しそうな目で見つめてくる渚を見て、朋也もさすがにたじろぐ。
 渚の心境は多いに察しられる。良い大人が他人の子供をからかって楽しむなんて、周りから見たら決して良いようには見えるまい。というよりそもそもが児童虐待である。
「いいじゃねぇか、男ってのはそんなもんだ」
「アッキー」
 うんうん頷きながらエプロン姿で店から出てくるのは秋生。当然口にはタバコがくわえられている。
 まったくよく経営できてるものである、この店は。
「どういうこと?」
「男ってのはガキだからな、好きな子にはいじわるしたくなるんだよ。なぁ?」
 にやにや笑いながら朋也の肩を叩く。
「ばっ、オッサン何言ってやがる!」
「そ、そんな…朋也くん…」
「お、おい、渚? 信じんなよ? んなもんオッサンのたちの悪いジョークに決まってるだろうが!」
 渚の目にたまっている涙の量が増大、決壊五秒前である。慌てて訂正に入る朋也の後ろで秋生が大笑いをしていた。
 もはや子供たちを置いて騒いでいる成人一同である。
『……汐、きりがないので』
 頭の中でミンクの声が響き、汐を促す。
 汐は小さく頷くと、近寄って秋生のエプロンを引っ張る。
「アッキー、それで何しにきたの?」
「ん? ああ、そうだそうだ。忘れてた」
 秋生は思い出したように、というか実際に思い出してずっと小脇に抱えていたシートを取り出す。
「もうすぐちびたちの保護者も来るんだろ? これ敷いとけって、早苗がな」
 取り出されたシートに描かれているのはだんご、無数のだんご。いわゆるだんご大家族である。
 比較的大きめのシートの一面にだんごだんごだんご、各自いろんな表情をしただんごで敷き詰められていた。
「だんご大家族……」
 汐と渚はその輝かんばかりの光景に見とれ、うっとりとつぶやく。
「何だかんだで、やっぱ似てる親子だよねー」
「ええ」
 ちび二人の微笑ましい視線を受けながら、母娘はシートをところどころ草が生えた土丸出しの地面に敷き始める。
「あ、私たちも手伝わなくちゃ」
「そうねー。……で」
 じっとたばこを吹かしている秋生をじーっと見る真央。
「秋生さんは、手伝わないんですか?」
「ああん? 生言ってると早苗のパン食わせるぞコラ」
「……秋生さん、あれ」
 目を据わらせる秋生の隣で凪が指差す先にいるのは涙ぐんだ秋生の妻、早苗の姿であった。
 いわゆる、汐の祖母。外見といい仕草といいとてもそうは見えないけど、祖母。つまりは祖父である秋生の奥さんである。
 娘の渚と違って、その涙の決壊はすぐに訪れた。
「私のパンは、小学生への脅しに使われるものだったんですねーーー!!」
 そして彼方へ向かって走り出す早苗。速度から言ってなかなかの健脚である。
「ちょっと待て! ご近所さんに誤解がまねかれるようなこと言うな!」
「いや、真実だと思いますけど」
「俺は大好きだーーー!!」
 的確な凪の突っ込みも聞くか聞かずか、手元に無かったので並んでいる(全く売れていない)早苗パンを一つつかんで一口食べてから走り出した。律儀なことである。
「秋生さんって、よくあれ食べてから全力疾走できるよね……」
 真央のつぶやきにひどく納得すると同時に、新たな疑問が生まれた汐たちだった。


 二人が走り去ってから数十分後、参加者が一人やってきた。
「やっ、久しぶりね、朋也」
「杏」
 やってきたのは藤林杏。朋也の高校のときの友達で、汐たち三人が通っていた幼稚園の先生だった人物である。
「あ、杏さん」
 杏の姿に即座に反応したのは凪。何を隠そう、杏は凪の保護者なのである。
 苗字が違う理由を汐はまだ知らないが、特に気を止めることもなかった。何があっても、真央は汐の愛すべき友人、それだけで十分だからだ。
 ちなみに真央は両親共に病院勤務であまり家にいることがない。それもあって、普段から三人は出来る限り一緒にいるようにしているのだ。
 今回も元々真央の両親も参加予定ではあったのだが、突如仕事が入り、残念ながら欠席となったらしい。
「よっす、三人娘ー、元気してるようで何よりー」
「もう、私は朝一緒だったでしょう?」
「お約束よ、お約束。仲間はずれにすんのも悪いでしょ」
 からからと笑いながら凪の頭に手をのせてなでると、気持ちよさそうに目を細める。
 汐と真央もやってきて杏に挨拶をする。
「こんにちは、先生」
「こんにちはー」
「こんにちは杏さん、どうぞこちらへ」
 後ろでせっせと支度していた渚がシートの上へと杏を誘う。
 そこには既にコップに入ったお茶と、多少つままれた跡があるいくつかの弁当箱があった。
「サンキュー、渚。じゃ、ありがたくお邪魔するわね」
 靴を脱ぎ、シートの上に座ると早速弁当にかぶりつく。
 決して食い意地がはってるのでなく、料理が趣味である杏としては古河母娘の弁当が気になるのだろう。……真実の程はどうだか怪しいが。
「うわー、こりゃまた気合いれてこしらえたわね」
「久々に集まるということで、お母さんが張り切ってしまって」
「成る程ねぇ……さすがだわー」
 玉子焼きを一つまみしてうなる。
 そして思い出したように自分の荷物を取り出し、中から拳大ほどの袋を引っ張り出す。
「はい、これ差し入れのクッキー」
「うわーい!」
 途端にはしゃぎだした真央が一気に飛びつく、が。
「行儀の悪い子にはおあずけー」
「あうっ!」
 目の前でひょいと持ち上げられ、見事にこけた。
「いたたたた。杏さん、ひどぃ……」
「あはは、ごめんごめん。でも、どうも真央ちゃん見てるといじりたくなってくるのよねぇ〜」
 真央は涙目になりながら転んだ状態のままうらめしそうに杏を見上げ、そんな杏はにやりと笑いながら幼稚園の先生あるまじきことを言う。
「そんな……朋也さんみたいなこと言わないでくださいぃぃ」
「ガーンッ」
 真央の強烈な言葉にこれ以上ないほどにショックを受けたのか、思わず硬直して持っていたクッキーを落としてしまう杏。
 その様子を見て一同が苦笑する中、朋也が意地悪く笑う。
「けっけっけ、ざまーみろ」
「……そうね、あんたがいけないのね、あんたがー!!」
 杏がどこからともかく漢和辞典を取り出し、朋也に投げつける。
「うおっ! なんでだ、どうしたらそうなるんだ! 責任転嫁もはなはだしい…てか、お前いつまでも辞書を常備してんじゃねーー!!!」
「うるさい、素直にやられなさい!」
「やなこった!」
 朋也は次弾を装填している杏の隙をついて靴を履き、即座に逃げ出した。
「あ、こら、逃げるなー!」
「逃げるに決まってんだろーがー!!」
「じゃあその足を五秒ばかし止めなさい! それだけでいいから!」
「ぜっっっったいに断るッッ!」
 いくつもの辞書が飛ぶ中、大人の追いかけっこが始まったのだった。


 十分後。
 走りつかれた二人は仲良く並んでシートの上で座り込んでいた。
「ぜえっ……ぜえっ……ぜぇ……」
「はぁ……はぁ……はぁぁ……あんた、体力落ちてないわね。意外だわ……」
「そりゃ、仕事で肉体労働をしてるからな。杏こそ、相変わらずパワフルなままだな」
「ふんっ!」
 朋也が言い終わるや否や、杏の裏拳が朋也の顔面にめこっとめり込んだ。
「幼稚園の先生ってのはね、体力勝負なのよ」
「さよですか……」
 それだけを言い残し、朋也はばたりと背中から倒れた。そのままぽけーっと空を眺める。
 透き通るような青空、ゆったりと動く雲。
「いー天気だなー」
「そうねー。このまま昼寝しちゃいたい気分」
「あー、それもいいかもしれな……ん?」
 突如目の前にコップの底と、それを持つ小さな手が見えた。
「はい、飲み物どうぞ」
「サンキュー」
「ありがとね、凪」
 朋也は起き上がりコップを受け取る。はしゃぎつかれた朋也と杏を気遣ったのか、アップルジュースが注がれていた。
 二人に渡し終えると、にっこり笑って凪が下がっていく。
「杏、お前、自分はがさつなくせに、家族だけはしっかり育つのな」
「うっさいわよ! あーそう、またぶん殴られたいわけね?」
「いえ、全力でご遠慮します」
「ったくもう」
 一瞬朋也を睨み付けた後、杏はバレーボールで遊ぶ汐らを見ながら紙コップに入ったジュースをあおる。朋也も続けて口をつけた。
「ふー、生き返るー」
「やっぱり運動の後には、甘いものよねー」
 ほぼ同時に一気に飲み干すと、渚が妙ににこにこしながら近くにやってきた。
「二人とも、仲良しですね」
「それはないっ!」
 見事にはもる二人に渚がくすっと笑う。しばらくにらみ合っていたが、つられて朋也と杏も笑いはじめた。
「あたしらも変わんないもんよねー。こうしてお互いが近くにいるからだろうけどさ」
「そうだなー」
 渚がポットからお茶を取り出し、二人に手渡す。
 朋也は若干熱さを覚悟して手に取るが、程よい温度であった。そのことに自分の妻がいかに素晴らしいかを再確認する。
 自分の分を最後にいれ、隣に座った渚に忘れずにお礼を言った後、一口飲む。
「でも、周りはどんどん変わっていくんだ。ふと気づくと、そこにあったはずのものがなくなってる」
「朋也……」
 杏はまぶたを下ろし、思いにふける。脳裏に浮かぶのは自分が歩んできた人生の欠片たち。
 隣にいる朋也も渚も、杏にならって同じように過去を思い返す。
 確かに、この三人がかつて仲間たちと一緒にいた高校時代と比べたら、今は随分と変わった。変わってしまった。
 杏の双子の妹、藤林椋は結婚して家を出た。同じ街に住んではいるが看護士をしているということもあり、会う機会は決して多くない。
 騒がしい友人の春原陽平は地元の会社に就職し、実家へと帰った。こちらは取り入って自分から連絡するような相手ではないため、ここ数年音沙汰がない。
 今はそれぞれが違う道を歩み、新たな人間関係の中暮らしている。
 そしてこの街も、随分変わった。開発が進み、古い建物や自然がゆっくりと、しかし着実に消えていっている。
 だが、悲しいばかりじゃない。自分や周りが変わっていくのは嬉しいことも多い。椋の結婚は、その最もたるものだ。
 ただ、寂しさを感じるのだ。
 ふと、懐かしさが恋しくなることがある……。
 言いようのないこの気持ちを、隣に座る朋也と渚も感じていることを杏は察した。
 しんみりとするのは嫌いじゃない、が、今この場には似つかわしくない。
 そう判断した杏は目を開け、遊ぶ少女らの様子を見ると、気持ちを切り替えた。
「そういうあんたも、結構変わった気がするわよ」
「……そうか?」
 杏が話しかけると、しばらくたって返答がきた。気分を入れ替えるのに時間がかかったのだろう。
「あたしゃあんたが真面目に父親やってることにまず驚いたわよ。ま、渚がいるから子育ては大丈夫だとは思ったけどね」
「悪かったな」
「何ていうか、落ち着いた感じがする。もちろん、良い方にね。渚のおかげかしら?」
「そんな……」
 急に話を振られて顔を赤くする渚。その姿はどう見ても可愛い奥さんだった。だが可愛いだけじゃない、しっかりものの、家族を支える奥さん。
 出会った当時の、おどおどした気の弱い少女は、そこにはもういない。これも嬉しい変化の一つ。
「何にしても、お似合いよあんたら。神様がそう運命づけていたみたいにね」
「はい」
 恥じらいながらも、渚はしっかりと頷いた。その姿に満足すると、杏はボール遊びに精を出す子供たちに目をやった。
 三人で三角形を作り、ボールを下に落とさないようにトスやレシーブでつなげ続けている。
 早苗お手製の弁当をつまみつつ、杏はつぶやいた。
「こう、外で元気に遊ぶのは良いことだけど、小学生の女の子がする遊びとはちょっと遠いわね…」
「ま、良いんじゃねえの? 満足に遊べないよりかは、よっぽどさ」
「……そうね」
 その言葉に何らかの深みを感じた杏は、一呼吸置いてから頷いた。
 恐らく、渚のことだろう。朋也も杏も実際にその姿を見たわけではないが、体の弱さからずっと苦労をしていたのは聞いている。
 五体満足に健康で生まれる子も多いが、そういった障害を持って生まれる子も少なくない。汐を出産した後急に完治した渚は幸運なのだろう。
 また思考が暗くなりかけたのを杏は頭をぶんぶん振って振り払い、正面を見る。
 その視線の先には、ボールを拾い損ねて転ぶ真央の姿があった。


 日が沈むころになってようやく帰ってきた古河夫妻は、店の前でちょうど帰ろうとしていた杏たちを見つけた。
「今日はご馳走様でした」
「いえいえ、何もお構いできませんで。またいつでもいらしてくださいね」
 そう言うと、早苗は店から出てきた秋生から袋を受け取り、杏に差し出す。
「差し入れのクッキー、ありがとうございます。お礼といってはなんですが、このパンを……」
「いいえいいえ! 気持ちだけで十分です」
 丁重に断る杏に、残念そうな早苗。その後ろでは秋生が舌打ちをしていた。
 中身は恐らく、早苗が作ったパンだったのだろう。
「そうですか……。では、帰り道気をつけてくださいね」
「はい。それではまた」
「またね、汐」
「明日、学校でね」
「うん。ばいばい」
 別れの挨拶を交わし、三人は我が家へと歩き始める。大分暗くなっているので、杏と凪が付き添って真央を家まで送っていくことになっている。
 わいわいと話しながら遠ざかっていく背中を見送ると、朋也が振り返った。
「じゃ、俺たちも帰ろうぜ」
「おー」
 元気よく手を上げる渚と汐。
 こうして、楽しい休日は過ぎていく……と思われたのだが。

「……? 朋也君、あれって何でしょう?」
 古河家からの帰り道。渚がふと空を指差す。
「飛行機か?」
「飛行機って、あんなふらふら飛ぶものでしょうか?」
「違うのか? いや、確かに何か違和感あるな……」
 不思議そうな両親の言葉に、汐は両親の視線を追って空を見上げる。
 汐の視覚を通じて光を見たミンクが叫ぶ。
『汐、あれは!』
『もしかして、光なの!?』
『間違いありません。それにしても、こんなに近くにいたのに気づかなかったなんて……』
『あーもう、もうすぐ日が暮れるっていうのに……なんてうじうじしてる場合じゃないね! 早く追いかけよう!』
「パパ、ママ、ごめん! 晩ごはんまでには帰ってくるから!」
「あ、おい! 汐!?」
 決断するや否や汐は踵を返し、朋也の制止を振り切って光の方向に駆け出した。


Bパートへ続く


 幕間

「ねえ、汐」
「何? ミンク」
「一つだけ、ありきたりな魔法を使えるとしたら、何が使いたいですか?」
「世界中にニフラム」
「即答ですね、なぜですか?」
「だって、そうすれば悪い人全員いなくなるでしょ?」
「……意外と危険思考なんですね、汐って」

 この話はフィクションです。



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