闇夜に、一閃の光が走る。
 瞬く光がやんだ後、残ったのはただ静寂のみ。
 その中にふと、少女の声と、何かがきしんだような音が響く。
「封印完了、と」
「ぎぎぎ……」
「うん、幸先いいね。それに、これは使い勝手が良さそう」
「ぎぎ」
「さ、次行こう。もう、あまり時間はないのだから……」
 少女の声を最後に、音が途切れる。
 そして闇の中に、月の光に照らされる白い衣が浮かび上がった。


ルミノ・ファンタズム
第六話 もう一人の魔法少女


 治癒の光を封印した翌日の早朝。
 母に散歩と言って家を出た後、汐はいつものように病院の裏で魔法の修練をしていた。
 せいぜい三十分程度しか時間は取れないが、それでも貴重な時間であり、何より早寝早起きの元となるのですっかり習慣となっていた。
 汐は自分で生み出した魔力の玉をぐるぐると操りながら、ふと思い出したように肩の上に乗る式二人に尋ねた。
「そういえば、何で光を封印するには相手を弱めなければいけないの?」
「え? ああ……それは、今使っている封印の魔法が初歩魔法だからです。これは光の封印という魔法そのもののレベルの問題なので、残念ながら解決しようがないですね」
「まあ、だからっていつも問答無用で襲い掛かったりするのも何だかなぁって思うよねー、普通は」
 普段相手の意思が見えないから思いもしないことではあるが、よくよく考えるとマロンの言うとおりである。
「とはいえ、今のこの状況そのものが通常はありえない状況ですし、むしろ初歩とはいえ封印魔法があるだけでもありがたく思いましょう」
 言いながらミンクが苦笑する。
「この世界において異端の存在である光は何らかの手段でバリアを張らない限り、所謂気が立った状態になります。だからそれを静めなければ光が封印に応じることなどないですし、静めるためには、荒れている力を弱めるのが一番効果的なんです。逆に、封印に応じさえすれば前回のように弱めなくても封印できるわけですね」
「ミンクたちは大丈夫なの?」
「私たちには強い自我がありますので、意識的にそれを払うことができます。光には意思があってもそれは強いものではないので、無防備のままやられてしまうんですよ」
「へー、そうだったんだ」
「マロン……あなたという子は、自分もやったことでしょうに……」
「言われてみれば確かにそんな感じもするけど、でも何となくでやってたから、詳しいことはぜんぜんわからなかったんだよ。へー、そういうことだったんだねー」
 能天気に感心するマロンに、ミンクがやれやれといった様子で額に手をあてる。
「……もういいです。マロンがそういう子だっていうのはわかってますから。さあ汐、そろそろ戻りましょう。もうすぐ朝ご飯でしょうし」
「うん」
 だんごのついた杖をバトンのように正面でくるっと回し、腕を振り下ろしながら魔力の光を飛び散らせつつ消す。
「えへっ、完璧」
「おー、すごーい」
 汐が満足げに笑い、マロンがぱちぱちと拍手する。
 ミンクはその様子を微笑みながら見つめると、ふと病院の方向に顔を向けた。
「それにしても、何だか今日は騒がしいですね」
「そういえばそうだね。何かあったのかな」
 練習中から気になっていたことだが、何か今日は騒がしかった。
 今も病院の方から、歓声のような人の声がしきりに聞こえてきている。
「普通こういう場では静かにするものではなかったのでしょうか?」
「変だよねー。明日もこんなだったら、練習場所変えたほうがいいんじゃない?」
「その方がいいかもしれませんね。こう騒がしくては集中もできませんし……っと、早く帰らないと、渚さんが心配しますね。急ぎましょう」



 汐が家に帰ると、居間では無事元気になった渚が、テレビのニュースを流しながら朝ご飯の支度をしていた。
「あ、汐ちゃん。お帰りなさい。朝ご飯の準備できていますよ」
「はーい」
 汐は返事をすると渚と共にテーブルに着く。今日の献立は納豆ご飯と味噌汁と玉子焼きだ。健康に良いからという理由で、岡崎家の朝には高頻度で納豆ご飯が登場する。
「「いただきまーす」」
 手を合わせ、母子で唱和する。
 まずは納豆を手に取り、箸を握ってぐりぐりとかき混ぜる。渚と一緒に、ぐりぐーりとかき混ぜる。そして五十回ほどかき混ぜたあと、既にとかれた玉子が入ったお椀にいれ、醤油をたらし、青海苔をかけ、更にかき混ぜる。最後にご飯にかけて完成。汐は満足げな笑顔を浮かべ、納豆ご飯を頬張り始めた。
 そんないつもの岡崎家の朝……だったのだが、テレビの中では妙に慌しい事が起きているようだった。
「おはようございます。早速ですが今朝のニュースです。昨日深夜から今にかけて、信じられない現象が発生しているようです。現場の工藤さーん」
「こちら現場の工藤です。今、私は奇妙な出来事のあった○○病院前にいます。こちらではなんと、昨晩のうちに入院患者全員がすっかり健康になってしまったというのです」
 病院の門をバックに女性アナウンサーがそう伝えた後、画面は切り替わり、当事者のコメントが順々に現れた。
「いや、もう何がなんだか。骨折でしばらくサッカー出来ないと思ってたのに」
「今日目が覚めたら昨日まであった痛みがすっかり飛んでいて、もうびっくりですよ!」
「おかしいです。患者は昏睡の危篤状態だったんですよ。意識を取り戻すなんて、ありえません!」
「このように、現場は騒然としている状況です。あ、次の情報が……え、なんですって? たった今入った情報によると、町内病院のいたるところで同じことが起こってるようです。今日は絶好の退院日和になりそうですね」
 あまりの出来事に、リポーターが妙な単語を誕生させていた。
「これ、近くの病院みたいですよ、汐ちゃん。今日わたしが急に調子が良くなったのも、何か関係あったりするんでしょうかー」
 渚がにこにこと笑いながらしゃべる渚に対し、汐は手に茶碗を持ったまま硬直し、テレビを見つめ、呆然としていた。



 汐はどこか思考が飛んだまま、渚に見送られランドセルを背負って家を出る。
「ねえ……ミンク、マロン、どういうこと……?」
『とにかく汐、人目につかないところへ!』
 思わず口で問いかけると、すぐさまミンクの返事が飛んでくる。
 言われるままアパートの裏に入ると、二人はすぐさま実体化し、まくしたてるかのようにミンクが叫ぶ。
「汐! 杖を出してください!」
「え?」
 普段は見ることのない、ミンクの激情的な一面に汐はぽかんとしてしまう。
「早くっ!」
「う、うん……」
 幾分強まった呼びかけにはっとして、汐はすぐ杖を具現化させた。
「だんごから、治癒の光を感じられますか?」
 先ほどまでの勢いを治め静かに尋ねるミンクの言葉に、汐は実行することで応える。
「えっと…………あれ? いない……いないよ、ミンク!」
「やはり、そうでしたか……」
 慌て叫ぶ汐に、ミンクが眼を伏せ、マロンは珍しく難しい顔をしていた。
「まさか封印した後に暴走するだなんて、考えてもみなかったね……」
「どうして? 今までこんなこと一度もなかったのに……」
「治癒の光は自我を保っていました。ということは、それだけの力を内に秘めていたんです。でも、まさか封印の魔法を破るほどだなんて……」
 ミンクの言葉が途切れ、重たい空気が漂う。
 無言のまま数分過ぎた後、そっとマロンが口を開く。
「とりあえずさ、行動しようよ。ここでじっとしてても始まらないんだし。片っ端から病院を回れば、手がかりも何か見つかるんじゃない?」
「そうですね……とはいえ、このまま向かうわけにもいきません。まずは秋生さんの所に行きましょう」
 三人は顔を上げ、古河家へとその足を向けた。


「なるほどな……」
 居間に座り、事情を聞き終えた秋生は、腕を組みふむと唸る。
「わかった。学校と家への連絡は任せとけ。急に体調崩して、この家で寝ているってことにすりゃ、渚も安心するだろ」
「ありがとうございます。それと、早苗さんの服を貸していただけますか?」
「早苗の服? かまわねーけど、何に使うんだ?」
「汐ちゃんが成長の光を使った後に着る服が欲しいんです。ほら、子供がこの時間一人で歩いてたら不審に思われてしまうかもしれないじゃないですか」
「なるほどな……。わかった、俺に任せとけ!」
 ばんと両膝をたたいて秋生が立ち上がると、そのまま部屋を出る。
「……どことなく嫌な予感がするのは私だけでしょうか?」
「さあて、どんなの持ってくるんだろね……」
 ミンクとマロンが妙な緊張感に包まれる中、秋生はすぐに一着の服を持って帰ってきた。
 三人は秋生が手に持つ服に視線を向けると、ぽかんと口をあけ、しばし唖然とした。
「……ねえ、何これ?」
「何って……早苗の古着に決まってるじゃねーか、何か文句あんのか?」
「文句って言うか……これ、どう見ても、所謂ゴスロリってやつだよね……?」
 どこからそんな使いどころが限られる知識を得たのか、マロンがその黒色でひらひらとした装飾がたくさんついている服を指差す。
「早苗さんの過去に一体何があったんでしょう……」
 呟くミンクの隣で、汐が祖母を見る目を変えようかと少し思ったのは内緒である。
「とにかく、目立たないために変装するんですから、もっと普通の服を……というか、こんな格好で病院に行くイカレポンチがどこにいますか」
「なんだよ。似合うと思わねーのか!?」
「確かにその意見には同意しますが、だったらせめてナース服を出してください。私が着せるなら断然そっちですっ」
「……ミンク?」
「はっ!」
 汐の戸惑う顔と秋生のニヤニヤした顔とを見、ミンクは今自分が何か口走ったことに気づく。
「と、とにかく、よろしくお願いしますね!」
 慌て顔をしたミンクはわたわたと両腕を振った後、そう叫びながら太ももに振り下ろした。


 そうして、一行は無事早苗の服を借り、汐が成長の光で変装すると古河家を後にした。
「俺もついていってやりてぇが、さすがに今の状況で俺がこの家を離れるのは色々マズイ。汐のこと頼んだぜ、ミンク、マロン」
 最後にこう言って、秋生は汐を送り出してくれた。
 かくして件の病院についた一行であったが、そこは報道陣や退院する人たちでごったがえしており、とてもじゃないが一般人の汐が入り込める様子ではなかった。どうすることもできず、仕方なく外から魔力感知を行ってはみたものの、結局気配は感じられず、光の行方の手がかりは得られなかった。
 その代わり、病気や怪我が治り、患者や家族たちの喜ぶ顔を汐たちはたくさん目にした。
 病院の敷地内に溢れる笑顔を見て、汐も嬉しくならないはずがない。だが、その一方で、例えようのない不安が沸くのも確かだった。
 裏の林、木の上から病院を眺めつつ、汐は自分でも不確かな心のまま、ふと口にする。
「ねえミンク……これって、正しいことなのかな?」
「……いいえ、これは間違っています」
 そんな汐の言葉にミンクは静かに、しかし強く否定した。
「魔法の力は本来この世界にあってはならないものです。何があっても、世界が魔法に頼り切るようになってはいけないんです。このまま放っておいたら確かにたくさんの人が助かるかもしれない。でも、そうした先この世界はどうなるでしょうか? きっと治癒の光に頼りきり、人は自分で治そうと頑張る気持ちをなくしてしまうでしょう。そしていずれ治癒の光がいなくなった時、お医者さんも病院も、医術そのものも消えてしまっていたら……」
 ミンクが語る恐ろしい未来予想に、汐はぞっと背筋が凍ったような心地を感じた。そんな汐の様子を見て、ミンクはゆっくりと首を振り、言葉を継ぐ。
「だから、こんなことはあってはいけないんです。これ以上騒ぎにならないうちに、早く治癒の光を見つけ出しましょう」
「うん…!」
 汐は頷き、すっくと枝の上で立ち上がった。


 先ほどの病院から離れ、光を探し始めて二時間が過ぎた頃、汐たちは適当なビルの屋上で休んでいた。
 町内の病院をいくつか回ってみたものの、一向に手がかりが得られず、明らかに疲労が見えながらも頑張ろうとする汐を見かねたミンクとマロンにより、休憩を取ることが決定したのだ。
「ねえミンク」
 灰色のコンクリートの壁に背を持たれかけ座る汐がそっと問いかける。
「なんでしょう?」
「治癒の光は、どうしていきなり暴走なんてしたんだろう?」
 近くで空中に浮くミンクは少し考えた後、首を横に振った。
「いいえ、これはきっと暴走じゃありません。恐らく、渚さんを治癒する時、光が汐と同調しすぎてしまったんです。それで人を助けようとする気持ちが光に強く芽生えて……」
 そこまで口にしたところではっとし、ミンクが振り向くと、汐はさっと顔色をなくし、唇を振るわせながら見開く瞳は虚空を見つめていた。
「そんな……私……が……?」
「汐ちゃん落ち着いて、汐ちゃんのせいじゃないよ」
 マロンが汐を慰めながらきっとミンクをにらむ。責め立てるような視線を受け止め、ミンクが申し訳なさげに顔を伏せる。
「す、すみません。そんなつもりじゃ……」
「ううん……いいの。だって、それが本当なら誤魔化したって仕方がないもん」
 悲痛な面持ちはぬぐいきれないが、それでも何とか笑みを浮かべ、両手を握ってガッツポーズをとる。
「それより、早く治癒の光を見つけないと」
「でもどうすんの? これだけ探して手がかりなーんも見つからなかったんだよ?」
「……手詰まりな今、駄目元でもやらないよりかはマシですか。ちょっとした賭けではありますが、教養の光を使ってみましょう」
「教養の光?」
 意図を理解できない汐とマロンがそろって首をかしげる。
「相手の立場に立って物を考える力も与えてくれます。光の手がかりは、恐らく人を助けたいという心……。汐、できますか?」
「うん、わかった。……エデュケイション!」
 汐は成長の光を解除し、続けて教養の光に呼びかける。
 だんごが発していた白色の光が消え、新たにぽうっと亜麻色に光を発し始めた。
「どう?」
「うん……ちょっと待ってて……」
 顔を覗き込むマロンを抑え、汐は目を瞑りながらじっと考え込む。
「……いけそう。多分、こっち!」
「あっ、汐っ、その格好で外へ行くのはっ!」
 呼び止めると同時にミンクは駆け出す汐の手を引っ張る。
「どうして? 急がないとっ」
「少し落ち着いて、そして自分の姿を見てください」
 言われたとおりに自分の姿を見下ろしてみる。
 小さくなった汐の身体を包むのは、背丈にあわぬだぼだぼの早苗の服。そして走り出そうとして振りかぶった右手には杖もある。
 一瞬の思考の後、汐の顔に理解の色が浮かんだ。
「じゃ、じゃあどうすればいいの? 服はバトルコスチュームを着ればいいけど、教養の光を使いながら成長の光は使えないよ……?」
「……そろそろ本格的に光なしで魔法を使えるように修練すべきかもしれませんね。これからまた必要な場面がないとも限りませんし……。ですがとりあえずそれは置いておきましょう。まずは今どうするか、ですが……」
 ひょいと隣に飛んできたマロンが口を挟む。
「とりあえずある程度目星をつけて、後は飛翔か跳躍で一気に移動するしかないんじゃない? 今のまま歩いてて警察とかに見つかったらそれで終わりだし」
「……それしかありませんね」
「じゃあ、バトルジャケットを装着! フライ!」
 杖を一振りし、一瞬でバトルジャケットに変身すると、続けて教養の光を解除する。
 そして杖を目の前にかざし、飛翔の光を発動。だんごが金色に光ると同時に、汐の背から金色の翼が生えた。
「いくよー!」
 生み出した翼を一度大きく羽ばたかせ、汐は大空へと飛びたった。


 教養の光の力を借りてはじき出した汐の予想は、いずれかの病院の屋上、というものだった。
「あれだけ大勢の人の、難病までも治療してたんだから、その消耗は相当なはず。だとしたら、最後に訪れた病院の近くで休んでいる可能性が高い。例え屋上にいなくても、屋上から周囲を探査すればきっと見つかるよ」
 以上が、教養の光の影響か、大分難しい単語語彙が増えた汐の解説である。
 そして件の光はというと、灯台下暗しとでも言うべきか、まさに今朝ニュースで流れていた病院の屋上で発見したのだった。
「見つけた!」
 上空から光を視認し、汐が高度を下げていく。
 近づく気配に気づいていたのか、汐が降り立つと同時、光はふわりと汐の目線にまで浮き上がった。
 移動中姿を消していたミンクとマロンも姿を現し、汐たちと光は、じっと対峙する。
 しばし漂う沈黙の中、汐はミンクの言葉を思い出していた。
(この子がしていることはいけないこと。それははっきりとわかったけど、でも……)
 汐の脳裏に、昨夜の出来事が蘇る。
(私も……ママを助けるために、治癒の力を使っちゃった。そんな私が、この子に何か言ってもいいの?)
 同じ過ちを犯した自分に治癒の光を責める資格はない。何より、それが治癒の光を思い立たせた発端でもあるのだ。
 どうすることもできず思い悩んでいると、光から何か感情のようなものが流れ込んできたのを、汐は感じた。
 幾分下がっていた視線を持ち上げ、光をじっと見詰める。
「……私を、受け入れてくれるの?」
 光から伝わるその感覚は、優しく汐を気遣うような、慈愛に満ちたものだった。
 胸を締め付けられるような思いを抱きながら、しかし、決意を込めて汐は杖を振りかざす。
「ごめんね……。私はもう一度、あなたを……封印します!」
 そう告げて汐が封印の呪文を静かに唱えると、再び治癒の光はだんごの中へと吸い込まれていった。
 だんごの中にいる治癒の光からは、力を使いすぎたせいか、どこか疲れきった感覚を受けた。恐らく、しばらく休ませないと治癒の光も使うことができないだろう。
 それを無意識に感じ取りながら、汐はだんごを、その中にいる治癒の光を見つめた。
「これで、よかったんだよね……」
「はい」
 ぽつりと呟いた汐の言葉にミンクは頷くと、正面に向き直り、静かに話し始めた。
「治癒はある意味、自然界の法則を最も壊しやすい。単純に壊す力という意味だけでなく、使用者が破りやすいという意味でも、最も危険な魔法だと、私は思っています」
 これは決してミンクが汐のことを信じていないから言っているのではない。汐が良い子だとわかっているからこそ、優しい心を持っているからこそ言っておかねばならないことだった。
「汐も、間違っても、魔法があるから大丈夫……なんてことは考えないでください。特に治癒の魔法は、この世界に向けて軽々しく扱ってはいけない類の魔法です。生命に関わる大きな魔法であることを、忘れないでください」
 今までも似たようなことは何度となく聞かされてきていた。しかし、いつにもまして真剣なミンクの口調に、汐はその言葉の重さをはっきりと感じていた。
 ミンクの言葉を心の中で反芻し、しっかりと刻みつけ、そしてその重さに応えるように、汐は強く頷き、ミンクもまた表情を崩して顔をほころばせた。
「さて、これからどうしよっかー」
 話が終わったところで、マロンが頭の後ろで手を組み、能天気に言う。
「何言ってるんですか。大分時間もかかってしまいましたし、まずは秋生さんの所に戻らないと……っ!」
 ミンクの言葉が不意に途切れ、場にいる皆の顔がはっと変化する。それぞれが周囲を見回し、そしてほどなく、三人は顔を見合わせた。
「これは、光の反応……!?」
「……近いですね。行きましょう!」



 Bパートへ続く


 幕間

 一方その頃、古河家では誰もいない部屋の前で秋生は門番のように座り込んでいた。
 無論、その理由は中にいると伝えた汐が、実際はいないことを知られないためである。
 早苗に店番を任せたまま、目をつぶり秋生は目をつぶり思考の海へとその意識を埋没させていた。
 どことなく鬼気迫る表情を浮かべ、秋生が思うのは……。
「うーむ、汐は将来こんなに美人になるんだな。変な虫がつかないように、気をつけねーと」
 ぽわんと秋生の頭の上に浮かぶのは、成長の光を使用した汐の姿……。
 呟いたその言葉は、幸か不幸か、誰にも届くことはなかった。



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